RECORD

Eno.232 シャルティオ&キィランの記録

6 おかあさんのはなし

 
 サーニャさんは、僕のことを気に掛けてくれるみたい。
 本当のお母さんよりも、もっとずっと、お母さんみたいだ。
 撫でてくれて、抱きしめてくれて。
 お母さんは、僕にそんなこと──

「……泣きそうになったのは、内緒」



 泣いたら痛いから、肌が灼けるから。
 キィランがいない場所で泣いたら、
 酷いことになるのは分かってるし。

 キィランはここには来てないんだよね。
 兄さんのお付きの従者なのにな、
 別のことで忙しいとかなのかな……。

  ◇

 アンディルーヴ魔導王国が女王、
 フォルーシア・アンディルーヴは偉大な人だ。

 僕の記憶にないうちに死んだ父さん、前王シェルリオール。
 彼の遺した素晴らしい体制を、上手いこと改良して国を良くして。
 誰もが母さんを父さんを褒め称えた。
 魔導王国の誇る、偉大なる国王夫妻なのだと。

 けれど、みんな知らないんでしょう。
 その裏で泣いてた子供のことなんて、
 出来損ないの第三王子のことなんて。

 みんなが見てるのは期待の第一王子と、天才の第二王子と。
 僕だけが唯一、母さんの髪の白を受け継いでいるのに。
 母さんとそっくりな見た目の僕は、
 しかし魔導王国には不要な存在だった。


「……おかあ、さん」



 兄さんに憧れるその果てには、あなたの姿がありました。
 極論、兄さんなんてどうでも良くて。
 僕は親からの愛が、欲しかっただけなのに。

 僕が出来損ないだから、不能者だから、毒の魔法を持っていたから、
 醜いから、綺麗じゃないから、穢れているから、徒花だから、

──生まれちゃいけない、存在だったから。

 振り向いて貰えないのは当然で、罰せられるのは当然で、
 助けてくれないのは当然で、蔑まれるのは当然で!


「……なら、僕はどうすりゃ良かったんだよ」



 親から愛されたいと思うのも、当然で。

 最初から詰んでいた僕の人生。
 お母さんという存在は、僕にとっての呪いだった。

 あなたさえいなければ、でもあなたにこそ愛されたかった。
 この渇望は、兄さんなんかじゃ救えない。


 涙を拭えば、頬の皮膚が爛れた。

「……いたい、よ」