RECORD

Eno.61 ジュヘナザートの記録

話す必要の無い事。

 
然し死とは、とりわけ魅力的な選択肢である事も知っている。

本能的に恐れなければならない、それは事実だが
それに相反するようにしてデストルドー死への欲動は存在している。
一般的には表層化し難い現象でありながら、場合によっては人間の根本的欲求或いは飼い慣らす抑制すべき衝動として
無意識ないし意図的に闘争する対象とも。

こんな哲学的な話を態々持ち出さずとも、あたかもそれが甘美であるかのように
その魔性へと取り憑かれる人種はマイノリティでありながらも少なくは無いって話。
凡そ厭世的な自殺希望者や破滅欲求への隷属。
とりわけ、極めて極端な現象だからこそ、
その神秘性と終幕への安堵から信仰にも至ってしまうというのはよーく知っている。


死は救済たりうるなんて悍ましい話は、存外と普遍・・だ。


信仰と敬虔は心の支えになっている内はいいが、愛のように度々人を狂わせる。
過ぎた敬虔なんてのは諸刃の剣。
"心折れるその時孤独であった者が破滅する"──なんてのは極めて正しくて、
それを唯一の信としていた時。
それに裏切られた時、そうして隣に誰もが存在していなかった時。

容易く人の心なんてのが捻じ曲がってしまう事を、よく知っている。
その上で極端・・な選択肢に走りやすくなってしまう事も。












稀代の殺人鬼。
殺戮の天才、練り歩く死、或いは……

救済の聖女と呼ばれた者が居た。

次代聖女の器に傷を付け、
年齢にして17から10年以上に渡って都市の各地を練り歩き、
救済と名の付けた殺戮を繰り返した修道女。─厳密には元、と言っても良いのがしれないが─

「────ギヒ、」


被害者の総数は2桁に留まらず、
最期は都市の外で……とも風の噂で聞いたが真偽の程は定かじゃあない。
少なくとも。少なくともかの殺人鬼化け物は長きに渡って恐怖を齎し、
時にそれは他の厭世者からの信仰をも集めた。
過ぎた恐怖はカリスマ性をも秘めている。そうでなくとも、普遍的な破綻は共感を呼んだ。


……曰く、『死とは至高の救済である』。
それを真に全うし、己の良心と慈愛にて殺戮を行ったソレの名前は、


「救済が必要ですかぁ?」


──ツーナイグ・ジュヘナザート
8つ上である、あたしの姉。


「……あたしは、」
「あの化け物姉貴の二の轍を踏みたくないだけなんだ」


あたしを"殺人鬼の妹"と曰く呪いを付けた者。