RECORD

Eno.352 ロミー・ベッシュの記録

皇歴XXX年 - 4月31日

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鈍色の空の上、昏い暗雲が列を成す。
雲間から覗く僅かばかりの陽光に照らされて
大小無数の黒点が砂嵐のように吹き荒れ、飛び交い続ける。

薄汚れた煉瓦作りの街並みで、黒装束の男女たちが列を成す。
俯いたまま聖書を開き、冷たい聖句を囁き続け、長大な黒い蛇が揺らぎ続ける。
悪しきとはなんたるか、我らが仕えたる神の慈悲と無垢とはなんたるか。

これは"黒の世界"と呼ばれる混沌、その一篇。
あらゆる世界、あらゆる次元の亀裂から漏れ出た
数多の「堆積物」が流れ着き、地へと満ち溢れ
そこから生まれる暗黒と混沌とか蔓延る、多次元世界の地獄の坩堝。

そしてここは、そんな暗く乱れた領域の中でも
比較的に命を繋いだままでいられる所
密やかで、乾ききった、ほんの些細な隠れ家の一つ。

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「汝らが死すべき時、その死に祈りなさい。
 汝らが信じるものではなく、その身を捧ぐ者ではなく
 その身に来たる静寂と無垢に、祈りを捧げなさい」



「神とは誠実なるもの。沈黙とは贖罪足るもの。
 声を無くして祈りなさい。汝らの相応しき苦難へ。
 祈りと敬虔を捧げなさい。悪意ありし者たちへ。
 静寂と無垢を以て句を唱え、その身を捧げなさい」



我らが唯一なる真実への、敬虔を。

「......死とは、唯一なるもの、誠実なるもの。
偽りなきもの、絶対のもの。無比なるもの。」





「死とは、我らが冷たき隣人です」




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「………。」



「"巻き戻り"ね。
 あたしのいたトコじゃあ終ぞ無かった"贈り物"だよ」



「ま、そんなモンなんじゃあ無いの?
 あたしはただ"積む"だけさァ、ゴミだろうが何だろうが。
 積んで積んで、そっから下のコトは知らないんだよねェ」



「足元ばっか見てっとさァ。
 ヘンな親切心が出ちゃって良くないんだよねェ。
 そーいうの"身の丈に合わない"っていう感じだから」





「……何の話ってェ?」



あたしがこれまでツブしちまった
声も名前も知らねーヤツらの人生の話。