RECORD

Eno.126 キャノスの記録

ふれる



『触れる』とはなにか。

初めて人のぬくもりに触れたのは、主に拾われた時。
自分とは違う、傷ひとつ無い白い手が自分の手を掴んだ。
それからも、私の手を引いて主は様々な場所へ出かけていった。

触れるというのは、信頼の証だ。
手を引くのは、一緒に行きたいから。
抱きしめるのは、愛しているから。
頭を撫でるのは、愛おしいから。

きっと多くの人間が当たり前に経験したことで、
触れ合いを通じて"愛される"ことを知る。

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握手をした。
特別な理由があったわけではない。
ただ、"触れられるのが嬉しい"と言ったから。
呪いに蝕まれ、名前と家族友人を奪われ、"それでも"と生きてきた男。
それでも触れることを諦める必要はないのだと、
触れることは恐ろしいことではないのだと伝えたかった。

「…………久しぶりです、こういうこと」



なにか大事なものを包み込むように、彼は手を重ねた。
噛みしめるように、浸るように。
それほどまでに、彼の今までの人生は孤独で冷たいものだったのだろう。







「……僕に幸せをくれて、ありがとうございます」







そんなことを、まるで長い冬が開けた雪解けを見るような顔で言うものだから。
一体どちらが救われた側なのかわからなくなってしまった。
彼に何かを与えられたことが嬉しくて、手は離し難くて。




水底の私は、確かに息を吐いたのだ。