RECORD
Eno.573 蒼海の記録
───とある山、その頂にふたりの男が立っていた。

























男たちは熱い抱擁を交わし、それよりも熱い涙を流した。恐れ慄いた木々が揺れていた。
そうして頂きからひとりの男が去った。もうひとりは今もそこで待っているだろう。

蒼海と師匠
───とある山、その頂にふたりの男が立っていた。

「蒼海、お前はここで学ぶすべてを修めた」

「はいっ!師匠、有り難く存じます」

「しかしお前にはまだ足りぬものがある」

「なっ…それはなんですか?!胸筋ですかそれとも大腿ですか?!」

「…お前のその勤勉さは長所でもある。だが、蒼海よ、それ故にお前の筋肉は……硬い!」

「硬い…!!!」

「この山で世俗と離れ長年生活してきたことも一因とも言えるだろう。すまない」

「いえ!師匠に拾われてから十何年、感謝こそあれど恨むことなど一切ありませぬ!」

「…そうか、有難う。…蒼海よ、ならば今こそ旅立つのだ」

「………それはどういうことですか」

「旅の中でお前は多くと出会い、それらはお前の筋肉を成長させるだろう。そして己の筋肉の使い道を探せ」

「使い道…」

「筋肉とは力!力とはパワー!」

「使い方次第で良き筋肉にも悪しき筋肉にもなる、ということですね」

「その通りだ。…私はかつて悪しき筋肉であった。それを恥じ、仏門を叩いたこともあったが…しかし己の道はここではないと己の筋肉の声を聞いたのだ」

「師匠…」

「そして旅の途中でお前と出会った」

「……!」

「お前を立派な筋肉に育てる。それが私の筋肉の使い道だったのだ」

「師匠……!!」

「だから有難う。ならば今こそ旅立つのだ!」

「はい…っ!」

「泣くな、阿呆息子が…」

「…ッ父上だって泣いてるじゃないですかぁ」

「これは心の汗だ…!」
男たちは熱い抱擁を交わし、それよりも熱い涙を流した。恐れ慄いた木々が揺れていた。
そうして頂きからひとりの男が去った。もうひとりは今もそこで待っているだろう。

「さぁてどこへ参りましょう!あの海の向こうまで目指してみましょうか!」