RECORD
Eno.332 プラエドの記録
「……あなた、あなた。もう起きる時間よ?」
ぼんやりする頭を抑えながら、ゆっくりと身を起こす。
「もう空が明るいわ。具合でも悪いのかしら?」
「……いえ、大丈夫です。」
「そう、ならいいのだけれど……」
いつも通りに支度をして、家を出る。
……ここは静かだ。
国境に程近くも、山間にあるために然程発展もしていない、長閑な町。
何も変わらない日常。
変わらない風景。
名も知らぬ鳥がどこかへ飛んでいく。
私は丘の上から町を眺めて、この穏やかな日々が続くようにと願う。
この穏やかな日々を守るのが、自分の仕事だと確認する。
森へ入り、見回りをする。
瘴気溜りを調査して、人喰いの魔獣がいたらそれを狩る。
日が昇りきった頃には森を出て、丘の上の教会……我が家へ帰る。
「とうさま!おかえりなさい!」
「おはよぉ、とうさん……ふゎゎ……」
「今日もお疲れ様♪」
「ええ、……ただいま」
そうして家族揃って朝食を摂る。
パンにジャムを塗って、紅茶に砂糖を3つ入れる。
元気すぎる娘を宥めながら、眠そうな息子の面倒を見てやって。……
「とうさま、どうかしましたか?」
娘が首を傾げてこちらを見ている。
「……うん?」
「とうさん、今日はなんかぼーっとしてる」
息子もこちらを覗き込んできて。
「……いえ。今日見た夢のことを思い出していたのですよ。」
「どんなゆめですか?たのしいゆめですか!?」
膝に乗り出す娘を抱えてやれば、息子も反対側に寄ってくる。
「そうですね、どこから話しましょうか……」
「あら、私にも聞かせてちょうだい?寝坊するほどの夢だもの!」
妻も被さってくるものだから、ぎゅうぎゅうになってしまって。
「ふふふ、全く。夢よりも現実の方が楽しいですね」
「ええ、私も!」「わたしも!」「ぼ、ぼくもー…!」
全員まとめて抱きしめてやれば、きゃあきゃあと声が弾けて。
その温度が、感触が、何より愛おしくて。
あたたかくて、
……
どうして温度がない?
────────────────
目を、覚ました。
宿の一人部屋。最低限の家具。
陽はとうに昇っている。
机の上の、半端な量残された酒。
枕元の古びた家族写真。
灰と褐色で満たされた、温度のない部屋。
かき抱いていたのは自分の体温だけが染みた布団。
鳥の影はなく、あの子らの声も聞こえない。
……ふらふらと立ち上がり、水差しを傾けて、雑に注いだ水を煽る。
一息でそれを飲み干して、床に膝をつき、寝台に突っ伏す。
布団はもう冷めている。
再びの喪失は痛いから あまり触れたくはなかった
それでも
愛する人でなくとも
ただ、その温度が恋しかった
……ひどく、喉が、痛い。
何より求めていた、愛おしく、温かく、穏やかで、酷い夢を見た。
:貴方が去った後の37号室
「……あなた、あなた。もう起きる時間よ?」
ぼんやりする頭を抑えながら、ゆっくりと身を起こす。
「もう空が明るいわ。具合でも悪いのかしら?」
「……いえ、大丈夫です。」
「そう、ならいいのだけれど……」
いつも通りに支度をして、家を出る。
……ここは静かだ。
国境に程近くも、山間にあるために然程発展もしていない、長閑な町。
何も変わらない日常。
変わらない風景。
名も知らぬ鳥がどこかへ飛んでいく。
私は丘の上から町を眺めて、この穏やかな日々が続くようにと願う。
この穏やかな日々を守るのが、自分の仕事だと確認する。
森へ入り、見回りをする。
瘴気溜りを調査して、人喰いの魔獣がいたらそれを狩る。
日が昇りきった頃には森を出て、丘の上の教会……我が家へ帰る。
「とうさま!おかえりなさい!」
「おはよぉ、とうさん……ふゎゎ……」
「今日もお疲れ様♪」
「ええ、……ただいま」
そうして家族揃って朝食を摂る。
パンにジャムを塗って、紅茶に砂糖を3つ入れる。
元気すぎる娘を宥めながら、眠そうな息子の面倒を見てやって。……
「とうさま、どうかしましたか?」
娘が首を傾げてこちらを見ている。
「……うん?」
「とうさん、今日はなんかぼーっとしてる」
息子もこちらを覗き込んできて。
「……いえ。今日見た夢のことを思い出していたのですよ。」
「どんなゆめですか?たのしいゆめですか!?」
膝に乗り出す娘を抱えてやれば、息子も反対側に寄ってくる。
「そうですね、どこから話しましょうか……」
「あら、私にも聞かせてちょうだい?寝坊するほどの夢だもの!」
妻も被さってくるものだから、ぎゅうぎゅうになってしまって。
「ふふふ、全く。夢よりも現実の方が楽しいですね」
「ええ、私も!」「わたしも!」「ぼ、ぼくもー…!」
全員まとめて抱きしめてやれば、きゃあきゃあと声が弾けて。
その温度が、感触が、何より愛おしくて。
あたたかくて、
……
どうして温度がない?
────────────────
目を、覚ました。
宿の一人部屋。最低限の家具。
陽はとうに昇っている。
机の上の、半端な量残された酒。
枕元の古びた家族写真。
灰と褐色で満たされた、温度のない部屋。
かき抱いていたのは自分の体温だけが染みた布団。
鳥の影はなく、あの子らの声も聞こえない。
……ふらふらと立ち上がり、水差しを傾けて、雑に注いだ水を煽る。
一息でそれを飲み干して、床に膝をつき、寝台に突っ伏す。
布団はもう冷めている。
再びの喪失は痛いから あまり触れたくはなかった
それでも
愛する人でなくとも
ただ、その温度が恋しかった
……ひどく、喉が、痛い。
何より求めていた、愛おしく、温かく、穏やかで、酷い夢を見た。