RECORD

Eno.126 キャノスの記録

とくべつ

──特別とはなにか。

替えがたいもの?離したくないもの?
とても大事で、どんな合理的な判断よりも優先したくなってしまうもの?

──「それじゃぁきっと、その子の事が好き、なんだろうねぇ。キャノスちゃん」

──好き?
好き、好き、好き……好きって、なんだろう。
石の心臓が溺れる。締め付けられるように痛いのに、甘くて心地いい。

自分以外の誰かと手を繋ぎ合って、相手に微笑みかけている彼を見たくない。
彼を冷たい孤独から引き上げるのは自分でありたい。
できるだけ長く触れていたい。もっと二人で、色々な場所へ行きたい。

そんなことばかり思い浮かんでしまう。これは"良くないこと"だ。
彼は多くの人に愛されて、触れ合って、そのことを喜べる人間だ。
そうあるべき人間だ。
幸せであってほしい。今までがそうじゃない分、もっと……そう思っているのに。

──恋とは、特別とは。心を狂わせる麻薬だ。
"正しいこと"を選択できない。独りよがりな我儘がいくつも湧いて出てきてしまう。
私はいつから、こんな嫌な性格になってしまったのか。
彼が私に向けてくれている"特別"は、きっともっと綺麗で純粋なものであるはずなのに。

「どうせ帰るなら、なんて言うならさ。……勇気を出して、キャノスちゃんの素直な想いを伝えてみれば、いいんじゃないかな?」
「本当に、我儘とか困らせる……なんて思うなら。キミも、その子のそういった面を受け入れるんだよ。」


私は口下手で、可愛げがない。
こんなドロドロとした感情を、上手く整えて伝える術が見当たらない。
だけど、伝えないのは……きっと、もっと辛い。
いつかは様子がおかしいことも気づかれてしまう。

……彼は、どんな顔をするだろうか。
目を丸くして驚くだろうか。困った顔をして謝るだろうか。
あの微笑みを向けてくれる想像は、あまりできないのだけど……

そんな未来を想像するだけで、また私の心臓は甘い痛みに締め付けられるのだった。