RECORD

Eno.516 マリウスの記録

微睡みの抱擁5

「昨日の仕事は終わったかって?もうバッチリだっつーの」

「驚きの求心力でヒトまっしぐら!ってな」

「金払いも良くて右手左手うちわエル~!!」










ヒュプイーズはよいこにひとつだけのおともだち

まるくてかわいいやわらかないのち

ヒュプイーズはおともだちがだいすき

うまれたときからあなただけがおともだち

ヒュプイーズはあなたにえらばれたい

まあるいカプセルのなかであなたをまってるの

ヒュプイーズこうじょうにおむかえにきて

ふたりでおうちにかえろうね







ぷにぷにの手足で人間の腕をよじ登り頬擦りをする小さないのちと幸せそうな人間の姿が映り、ゆめかわいいなどと昨今表現されるような映像が続く。

「あーあ、俺もそろそろ欲しいなーヒュプイーズ」
テレビに流れるコマーシャルを眺めつつ同僚がぼやく。

「いつも隣にいてくれたら仕事もバリッバリやる気出るんだけどなー」
どう考えても仕事中に肩にいのちが乗っかっていたら邪魔だし危ないだろう。思ったままの事を言えば彼はちっちっ、とわざとらしく指を左右に振るので露骨に眉をひそめて見せた。
「落としたりちぎれたくらいじゃ死なないんだよ。人にも噛み付かない。餌場もトイレも覚える。安心安全簡単!」
彼も少なくとも衛兵として国民の安全を肩に背負ってる男であるので命を粗末にするようなタイプではなかろうが、それにしてもである。


ここ数か月、あのコマーシャルをよく目に入れるようになった頃。
気付けば国は空前のペットブームだった。
特に人気が高いのがあのヒュプイーズというペット。
正直なところあまり自分は可愛いとは思えなかったが(どっちかというと金魚とかエビの方が好きだ)、気が付けばそこかしこで人の肩にそれが乗っかっているのを見かけない日は無くなった。
この職場でも仕事に支障を出さないなら肩に乗せて見回りをしていいとまで上司から直々に許しが出るほどである。

「でもさあ、大人一人でいくのはやっぱちょっと恥ずかしいじゃん?俺もいい歳だしさ」
「だから頼む!一緒に来てくれよ!!」

いい歳をした大人がもう一人増えた所でどうにもならないだろ。そんな説得もむなしく、このままだとついていくまで足に人間が一人へばりついた状況になりかねず、しぶしぶ帰りに酒とつまみの奢りで話を付けた。


あの時、意地でも行かないと言っていれば何かが変わったのか。
それもまた今となっては、である。

この先のことなんてまだ何も分からない。
ちゃんとそうなれるかは分からない。
だが、その意志を歪めずにいられる相手と、彼らときちんと席に腰を据えて飲む日がいつか来るのだとしたら。
それはとても楽しみなのだ。