RECORD

Eno.423 モルドの記録

お嬢様の僕

もともと凛としていて、どこか人目を惹いている子だったから。
お嬢様と呼ぶことに抵抗はなかった。綺麗な服も似合っていた。

僕には最初、執事の服が与えられた、けれど。
その格好の僕を見たお嬢様に、ダメ、と言われた。
ダメなくらい、似合っていなかったらしい。うぅ……。

代わりに与えられた、メイドの服。
女の子が着るものじゃないの? って聞いたら、
いいのよ、って言われたから、これでいいのだろう。


お嬢様はしっかりしている。

朝、二人分の朝食を部屋に持って行くと、身支度を済ませている。
まぁ僕が着替えを手伝うわけにはいかないので、いいのだけれど。
それどころか、僕の三つ編みをほどいて、編み直してくれる。
僕には違いが分からないけれど、髪を梳いてもらう時間は心地良い。


お嬢様は紅茶を淹れるのが上手い。

僕が淹れたものより、ずっとおいしい。頭がいいからかな。
でもこれは、僕ができるようにならないといけないことだ。
だからコツを聞いたのに、教えない、って秘密にされてしまった。
学校の勉強はたまに教えてくれるのに、お茶に関しては意地悪だ。



お嬢様はやさしい。

吸血鬼である僕に、血を恵もうとしてくれるほどに。
その怖い提案は、いつからか、命令になっていった。

首を噛めと言われた。断った。
手を噛めと言われた。断った。

できませんと首を振り続けていたら、お嬢様は針を取る。
その先端を自身の指に向け、ぷつり、小さく突き刺した。

とつぜん何を、と、びっくりして近寄った僕の口に。
一点だけ赤の滲んだ、彼女の、指先が。


恐怖と、混乱と。
ぐちゃぐちゃの頭を塗り潰すような、甘み。口の中に。


拒まなくてはいけない。
怪物でなくなった吸血鬼に、必須のものではない。
だれかに怪我をさせてまで、得るものではない、のに。
抗うことができなかった。

以来、ときおりこうして、一滴だけ。
お嬢様に傷を負わせてまで、血を頂いている。
針の傷なんてすぐ治るから、という言葉に甘えて。
怖いくらいやさしいお嬢様の指先に、口を付ける。



でもね。
本当に、一番おいしかったものは。
あの日、きみとはんぶんこしたクッキーなんです。

あなたの淹れた紅茶と一緒に。
今度は僕の作ったクッキーを食べましょう。
実は、厨房で働く方に教えてもらって、修行中なのです。ふふ。