RECORD
Eno.516 マリウスの記録
微睡みの抱擁6
※一部精神的ホラーが含まれます。
『さぁ、いまから一緒にヒュプイーズを作っていこう!』
『簡単・安全・安心だから大丈夫』

どこからか底抜けに明るい声に目を覚ます。
背中にはやけにあたたかでやわらかな床の感触がある。
……あの後、仕事終わりに同僚と共にヒュプイーズ工場に赴いたまでは記憶にあった。
確かあの時、受付に二人分ですねと言われて自分は違うと言ったはずだった。
しかし、何度頭をひねってもその先を思い出せないのだ。
この状況を探ろうにも身体は地面に張り付いたように動かす事が出来ない。
声を出そうとすれば、ふわふわと空中から落ちてきたパステル調の星型のシールが喉元に張り付いて音を奪っていく。
どうにも八方塞がりの中、そんなことを露知らずで言葉が続けられる。
『あなたから魂と体を分けちゃいます!』
『はーい!1回目!ポン!』

ポン!と耳の奥でスポンジ同士を叩き合わせたような音が鳴ったかと思えば、身体の半分『下半身』の感覚が途絶える。
自身の質量を半分にされたかのような、嫌な感覚。
冷や汗が噴き出し、必死にもがこうとするもそれが叶う事はなく。
『もう一丁!2回目!ポポン!』

もう一度音が鳴れば今度は『上半身の右半分』の感覚を失う。
視界の半分が見えているはずなのに、自分のものではないような感覚に捕らわれる。
半分だけになってしまった脳では纏まる思考も纏まらず。
『まだまだ行くよ!3回目!』

幾度も音は鳴り続ける。
その度に身体から少しずつより分けられ。
追いやられ。
切り捨てられ。
『4回目!5回目!ラストスパート!』

そうしてこの身体は完全に自身の支配下には無くなる。
最早自分のものではなくなった身体から切り離された私は大さじのスプーンで掬い取られる。
その匙一つ分の容量にしがみつく手すらないまま必死に落ちぬように。

かなしい かなしい しくしく
かえして かえして
大人という外殻を失った魂は、酷く脆く心細く。
律しようとすればするほどぽろぽろとしずくがこぼれていく。
『ちゃんと魂だけ分けられたらヒュプイーズの元と一緒にしてちゃおう!』

スプーンからカプセルのような容器に落とされると色々な材料が上から降ってくる。
21gの質量に不要なものが加えられていく。
いたい つめたい しくしく
やめて やめて
『ぜ〜んぶ混ぜたらコードにしっかり繋いじゃおう!』
『外れちゃうと上手く形成出来なくなっちゃうよ!』

カプセルが赤青螺旋のコードに繋がれる。
コードからは余った空白を埋めるようにしょっぱい液体が流し込まれていき、その小さな外殻を満たしていく。
思考の奥からさざ波のような音がする。
『準備が出来たらスイッチオン!一気にふくらむよ!』

ぽこ、こぽと音が聞こえてきたかと思った次の瞬間。
泡立つ、弾ける、膨らむ。
バチバチと思考の中を走り抜ける発泡音とともに形を保って居られなかった思考に質量が宿る。
なにものでもないものに、思考が固定される。
こわい くるしい おぼれちゃう
たすけて たすけて
ここにいたくない
でたくない
こんな わたしを
うまないで
不可逆の行為
逃げることも消えることも出来ず
未知の恐怖に支配される
否が応でも産み出される
外殻を破る音と共に産み落とされる
「ぴゃあ ぴゃあ」

新たないのちとして
『さぁ、いまから一緒にヒュプイーズを作っていこう!』
『簡単・安全・安心だから大丈夫』

どこからか底抜けに明るい声に目を覚ます。
背中にはやけにあたたかでやわらかな床の感触がある。
……あの後、仕事終わりに同僚と共にヒュプイーズ工場に赴いたまでは記憶にあった。
確かあの時、受付に二人分ですねと言われて自分は違うと言ったはずだった。
しかし、何度頭をひねってもその先を思い出せないのだ。
この状況を探ろうにも身体は地面に張り付いたように動かす事が出来ない。
声を出そうとすれば、ふわふわと空中から落ちてきたパステル調の星型のシールが喉元に張り付いて音を奪っていく。
どうにも八方塞がりの中、そんなことを露知らずで言葉が続けられる。
『あなたから魂と体を分けちゃいます!』
『はーい!1回目!ポン!』

ポン!と耳の奥でスポンジ同士を叩き合わせたような音が鳴ったかと思えば、身体の半分『下半身』の感覚が途絶える。
自身の質量を半分にされたかのような、嫌な感覚。
冷や汗が噴き出し、必死にもがこうとするもそれが叶う事はなく。
『もう一丁!2回目!ポポン!』

もう一度音が鳴れば今度は『上半身の右半分』の感覚を失う。
視界の半分が見えているはずなのに、自分のものではないような感覚に捕らわれる。
半分だけになってしまった脳では纏まる思考も纏まらず。
『まだまだ行くよ!3回目!』

幾度も音は鳴り続ける。
その度に身体から少しずつより分けられ。
追いやられ。
切り捨てられ。
『4回目!5回目!ラストスパート!』

そうしてこの身体は完全に自身の支配下には無くなる。
最早自分のものではなくなった身体から切り離された私は大さじのスプーンで掬い取られる。
その匙一つ分の容量にしがみつく手すらないまま必死に落ちぬように。

かなしい かなしい しくしく
かえして かえして
大人という外殻を失った魂は、酷く脆く心細く。
律しようとすればするほどぽろぽろとしずくがこぼれていく。
『ちゃんと魂だけ分けられたらヒュプイーズの元と一緒にしてちゃおう!』

スプーンからカプセルのような容器に落とされると色々な材料が上から降ってくる。
21gの質量に不要なものが加えられていく。
いたい つめたい しくしく
やめて やめて
『ぜ〜んぶ混ぜたらコードにしっかり繋いじゃおう!』
『外れちゃうと上手く形成出来なくなっちゃうよ!』

カプセルが赤青螺旋のコードに繋がれる。
コードからは余った空白を埋めるようにしょっぱい液体が流し込まれていき、その小さな外殻を満たしていく。
思考の奥からさざ波のような音がする。
『準備が出来たらスイッチオン!一気にふくらむよ!』

ぽこ、こぽと音が聞こえてきたかと思った次の瞬間。
泡立つ、弾ける、膨らむ。
バチバチと思考の中を走り抜ける発泡音とともに形を保って居られなかった思考に質量が宿る。
なにものでもないものに、思考が固定される。
こわい くるしい おぼれちゃう
たすけて たすけて
ここにいたくない
でたくない
こんな わたしを
うまないで
不可逆の行為
逃げることも消えることも出来ず
未知の恐怖に支配される
否が応でも産み出される
外殻を破る音と共に産み落とされる
「ぴゃあ ぴゃあ」

新たないのちとして