RECORD

Eno.9 ウサの記録

撃つ剣


ここに降り立ち、幾多の剣を交わして早2週間。

プロレスだとか言うもんだから、甘ったれたもんかと思っていれば、
存外と過酷な戦いも数多く。

時の運もあれば、或いは純然たる力量もあり、それなりの辛酸も煮え湯も味わって。
……あと、ロビーの美味いメシとかも堪能したりして。


この世界にある、文字通り"巻き戻す"回復魔法。
魔法だなんてこの歳で信じたくはなかったが、それは確かに本物に違いなかった。

真剣で斬り合っているのだから、当然怪我も数えられないほど負った。
傷跡が遺るのであれば全身はそのようになっていただろうし、
ひとしきりの刃は体を貫いただろうし、たぶん四肢はどれも一度は体から離れているだろう。

それでも私が五体満足なのは、この世界の魔法のお陰だ。


……私がここに来る前にいた場所で。
天使たちの街ロス・エンジェルズ、その片隅でチンピラとヤクザを相手取ってた時に、この魔法があれば。
果たして何人が救えたのだろうか……そう考えることも数あれど。

「……せいぜい、賊の死体が増えるだけか」


きっと、無意味なのだろうと帰結し、独りごちるに至る。

私が保身する必要がなかった所で、別に私の手が増えるわけではない。
それだけなのだが。

――それでも。

「……あと数歩、うちが早けりゃ、な」


ウィスキーのグラスを片手に、己の弱さを悔いてしまうこともある。
私は弱くて、それでいて傲慢な女だ。