RECORD
Eno.23 火焔放射姫の記録
『学園都市』
『学園都市』。
表向きには「世界で最も優れた最先端技術を教育に取り込んだ学術研究都市」として知れ渡り、
アタシのような人間でも知ってる場所だ。
綺麗な学校設備に始まり、最先端の教育カリキュラム。それでいて自由で開かれた学校。
紹介映像やパンフレットはそういう風に表現されていて、写真とかもそんな感じだった。
……。
「だった」っていうのは、実際には違ったから。
煌びやかな『表向き』の学園都市は、実在するけれどそれはニセモノ。
確かに『表向き』では最先端の教育カリキュラムやら技術は導入されているけれど、
本当の『学園都市』はそこから伸びる高速道路の奥にある。
そこは表向きには『自衛隊の都心部における作戦の訓練場』とされている場所で
高層ビル程の高さの外壁が周囲数十キロ以上に渡って伸びていた。
そして、幾つかの高速道路が外壁に接続して検問所と繋がっている。
アタシが乗っていた車はそこへ通じる高速道路へ乗り、どんどんニセモノの『学園都市』を離れていく。
最初は「え?」って思っていたけれど、次の瞬間には嫌な予感が過った。
アタシみたいなヤツは、『自衛隊が使うような大規模な訓練場』で『教育』されるのかもしれない。
でもどうして?疑問が沸く頃には検問所に着いていて、警備員がやってきていた。
……そうしてその顔を見て悲鳴を上げそうになった。
顔が動物だったのだ。精悍な人間サイズのワシの頭を持ったヒトが居る。
それが護送車の運転手と会話して、慣れたような所作で書類を受け取りハンドサインを促す。
アタシは後部座席に座っていたが、すぐに視線を足元に落とした。
見間違いだ。疲れているんだ。そう思った。だけれど運転手がそんなアタシをバックミラーで
見て気付いたのか、こう告げた。
「今の内に慣れておけ。この中にはああいう『ヒト』が沢山居るんだから」
それから先は、本当の『学園都市』の顔を見ることになった。
運転手はアタシを取調べした刑事さんだったけれど、彼はアタシに色々教えてくれた。
表向きの『学園都市』はニセモノで、ホンモノはこの『自衛隊の訓練場』とされている場所。
本当の『学園都市』には「裏社会」でしか生きられない者達が生活している事。
そして、その大半は「表社会」の学校に通えない「学生」達だということ。
「裏社会」という言葉に薄ら寒さを最初は覚えた。
どうしてアタシがそんな場所に!
……刑事さんの答えは単純明快。
「お前はな、もう『表社会』に居場所がないんだ。
手前の手癖の悪さで生徒数名、学校一棟全焼。少年院送り?
バカ言うな、それが通るなら世の中悪人だらけになってる」
「分かるだろう、――――。お前は『裏社会』のヒトとして生きるしかない。
そのチャンスを俺は与えてやったんだ。本来なら精神病院や少年院で
軟禁に近い状態で閉じ込められて一生を終えるだけの所をな」
自分の『手癖』の悪さとは、放火のことだろう。
火を見たいだけだ。あの綺麗な火を―――それの何がいけないの?
アタシは気付けば怒りに燃えていた。刑事さんも分かっていた。
「これからお前はその怒りを俺にぶつけようって話だろうが、
少し冷静になるんだな。着いたぞ」
多分アタシはその時点で、シートベルトを外して殴りかかろうとしてた。
けど、身体が重たくて言う事を効かない。まるで縛られたように―――
車の外に人の気配がする。誰かがアタシを何かで縛っている――――
刑事さんが車を降りて、護送車の扉を開けた。
アタシはそのまま彼に抱き抱えられて、目の前に広がる建物に連れていかれる。
……横目で、身なりの整った男がこっちを見ていた気がした。
それから、アタシは程なくして「超最強学園」という学校の生徒となった。
アタシのような「手癖」の悪い奴の収容所……とは違って、学校名に「超」がつくだけは
あるようで『教育』は最先端のものだった。
……偏差値が「表社会」のソレとは違い、最先端が故に進学校以上の勉強と授業が展開される。
アタシは元々勉強が嫌いではなかったからまだ良かった――いや、嘘をついた。
すぐに授業をサボるようになって、その度にスーパーヒーローみたいに筋骨隆々の
生徒指導の教師に『鉄拳制裁』を食らわされることになった。
「放火癖」のある一般人であるアタシが、そんな目に遭えばボロ雑巾になる。
それでも通わなければもっと酷い運命が待ち受けている気がして、行かなければならなかった。
アタシがそうして編入してボコボコにされている時、ある男子生徒が居た。
ソイツはいっつもどこか上の空で、冷たい海の色をした髪が特徴的だった。
ある日、懲りない(というかそうしないと無理だった)アタシは
授業を抜け出して学園の屋上まで来ていた。
……そうしたら屋上の真ん中、その男子生徒が、気だるげに遠くを見ていた。
「ねえ、アンタさ。何してんの」
「……あ?いいだろ別に俺が何してたって。
勉強ダルいからサボってるだけ」
近付くと、凍えそうな程に空気が冷たくなった。
勉強をサボる彼の名前を訊けば、
「俺は叔波……」
名字だけは訊けて、後半は『クォルラアアアアアア!!!』という
生徒指導の怒号にかき消され、アタシ達は『鉄拳制裁』を受けた。
それからその叔波ってヤツは卒業して、アタシはアタシで
『殴られるのはもういい加減に嫌だ』って思って死ぬ気で勉強した。
ただ火を見るのが好きな一般人が努力してどうこうなるものじゃないと
そう思っていたけれど、気付けば周囲と同じくらい学力が伸びていたし
気付けば『超最強学園』はマンモス校で、小・中・高・大揃っているおかげで
アタシはそのまま大学進学まで果たし、あれよあれよと言う内に危険物取扱者の資格も
取れる条件を満たして取得していた。
その間にも、アタシの放火癖は治ることは無く悪化した。
資格を取得する頃には一日に数回、ゴミを集めて燃やしていた。
……流石に大人しくしよう、という意味もあって都市のゴミ処理場で
アルバイトを募集してたからそこで焼却処理の仕事をしていた。
それで放火癖が治れば良い、そういう感じ。
ま、そんなコトは無かった。
アタシは『学園都市』で起きた『学生運動』に乗じて、
バイト先で知り合った人達や大学時代のサークル友達をかき集めて
『姫』になる事にした。

そう、『火焔放射姫』と名乗り、学園都市を燃やし尽くす炎になる。
綺麗な炎の海を見るためだけに、アタシはどんな手を使ってでも燃やしてやる
――……そう誓った。
でもそれはアタシ一人で出来たワケじゃない。

……あの日、アタシはある一人の女性と出会って。
それから『火焔放射姫』に成ったのだ。
表向きには「世界で最も優れた最先端技術を教育に取り込んだ学術研究都市」として知れ渡り、
アタシのような人間でも知ってる場所だ。
綺麗な学校設備に始まり、最先端の教育カリキュラム。それでいて自由で開かれた学校。
紹介映像やパンフレットはそういう風に表現されていて、写真とかもそんな感じだった。
……。
「だった」っていうのは、実際には違ったから。
煌びやかな『表向き』の学園都市は、実在するけれどそれはニセモノ。
確かに『表向き』では最先端の教育カリキュラムやら技術は導入されているけれど、
本当の『学園都市』はそこから伸びる高速道路の奥にある。
そこは表向きには『自衛隊の都心部における作戦の訓練場』とされている場所で
高層ビル程の高さの外壁が周囲数十キロ以上に渡って伸びていた。
そして、幾つかの高速道路が外壁に接続して検問所と繋がっている。
アタシが乗っていた車はそこへ通じる高速道路へ乗り、どんどんニセモノの『学園都市』を離れていく。
最初は「え?」って思っていたけれど、次の瞬間には嫌な予感が過った。
アタシみたいなヤツは、『自衛隊が使うような大規模な訓練場』で『教育』されるのかもしれない。
でもどうして?疑問が沸く頃には検問所に着いていて、警備員がやってきていた。
……そうしてその顔を見て悲鳴を上げそうになった。
顔が動物だったのだ。精悍な人間サイズのワシの頭を持ったヒトが居る。
それが護送車の運転手と会話して、慣れたような所作で書類を受け取りハンドサインを促す。
アタシは後部座席に座っていたが、すぐに視線を足元に落とした。
見間違いだ。疲れているんだ。そう思った。だけれど運転手がそんなアタシをバックミラーで
見て気付いたのか、こう告げた。
「今の内に慣れておけ。この中にはああいう『ヒト』が沢山居るんだから」
それから先は、本当の『学園都市』の顔を見ることになった。
運転手はアタシを取調べした刑事さんだったけれど、彼はアタシに色々教えてくれた。
表向きの『学園都市』はニセモノで、ホンモノはこの『自衛隊の訓練場』とされている場所。
本当の『学園都市』には「裏社会」でしか生きられない者達が生活している事。
そして、その大半は「表社会」の学校に通えない「学生」達だということ。
「裏社会」という言葉に薄ら寒さを最初は覚えた。
どうしてアタシがそんな場所に!
……刑事さんの答えは単純明快。
「お前はな、もう『表社会』に居場所がないんだ。
手前の手癖の悪さで生徒数名、学校一棟全焼。少年院送り?
バカ言うな、それが通るなら世の中悪人だらけになってる」
「分かるだろう、――――。お前は『裏社会』のヒトとして生きるしかない。
そのチャンスを俺は与えてやったんだ。本来なら精神病院や少年院で
軟禁に近い状態で閉じ込められて一生を終えるだけの所をな」
自分の『手癖』の悪さとは、放火のことだろう。
火を見たいだけだ。あの綺麗な火を―――それの何がいけないの?
アタシは気付けば怒りに燃えていた。刑事さんも分かっていた。
「これからお前はその怒りを俺にぶつけようって話だろうが、
少し冷静になるんだな。着いたぞ」
多分アタシはその時点で、シートベルトを外して殴りかかろうとしてた。
けど、身体が重たくて言う事を効かない。まるで縛られたように―――
車の外に人の気配がする。誰かがアタシを何かで縛っている――――
刑事さんが車を降りて、護送車の扉を開けた。
アタシはそのまま彼に抱き抱えられて、目の前に広がる建物に連れていかれる。
……横目で、身なりの整った男がこっちを見ていた気がした。
それから、アタシは程なくして「超最強学園」という学校の生徒となった。
アタシのような「手癖」の悪い奴の収容所……とは違って、学校名に「超」がつくだけは
あるようで『教育』は最先端のものだった。
……偏差値が「表社会」のソレとは違い、最先端が故に進学校以上の勉強と授業が展開される。
アタシは元々勉強が嫌いではなかったからまだ良かった――いや、嘘をついた。
すぐに授業をサボるようになって、その度にスーパーヒーローみたいに筋骨隆々の
生徒指導の教師に『鉄拳制裁』を食らわされることになった。
「放火癖」のある一般人であるアタシが、そんな目に遭えばボロ雑巾になる。
それでも通わなければもっと酷い運命が待ち受けている気がして、行かなければならなかった。
アタシがそうして編入してボコボコにされている時、ある男子生徒が居た。
ソイツはいっつもどこか上の空で、冷たい海の色をした髪が特徴的だった。
ある日、懲りない(というかそうしないと無理だった)アタシは
授業を抜け出して学園の屋上まで来ていた。
……そうしたら屋上の真ん中、その男子生徒が、気だるげに遠くを見ていた。
「ねえ、アンタさ。何してんの」
「……あ?いいだろ別に俺が何してたって。
勉強ダルいからサボってるだけ」
近付くと、凍えそうな程に空気が冷たくなった。
勉強をサボる彼の名前を訊けば、
「俺は叔波……」
名字だけは訊けて、後半は『クォルラアアアアアア!!!』という
生徒指導の怒号にかき消され、アタシ達は『鉄拳制裁』を受けた。
それからその叔波ってヤツは卒業して、アタシはアタシで
『殴られるのはもういい加減に嫌だ』って思って死ぬ気で勉強した。
ただ火を見るのが好きな一般人が努力してどうこうなるものじゃないと
そう思っていたけれど、気付けば周囲と同じくらい学力が伸びていたし
気付けば『超最強学園』はマンモス校で、小・中・高・大揃っているおかげで
アタシはそのまま大学進学まで果たし、あれよあれよと言う内に危険物取扱者の資格も
取れる条件を満たして取得していた。
その間にも、アタシの放火癖は治ることは無く悪化した。
資格を取得する頃には一日に数回、ゴミを集めて燃やしていた。
……流石に大人しくしよう、という意味もあって都市のゴミ処理場で
アルバイトを募集してたからそこで焼却処理の仕事をしていた。
それで放火癖が治れば良い、そういう感じ。
ま、そんなコトは無かった。
アタシは『学園都市』で起きた『学生運動』に乗じて、
バイト先で知り合った人達や大学時代のサークル友達をかき集めて
『姫』になる事にした。
「そう、アタシは今の道を進むことにしたってワケ」
そう、『火焔放射姫』と名乗り、学園都市を燃やし尽くす炎になる。
綺麗な炎の海を見るためだけに、アタシはどんな手を使ってでも燃やしてやる
――……そう誓った。
でもそれはアタシ一人で出来たワケじゃない。

「そう、アナタが……例の「放火魔」ちゃん……」
……あの日、アタシはある一人の女性と出会って。
それから『火焔放射姫』に成ったのだ。