■ 記録010
異形の彼は言った、「時空圧」。
私たちが使う言葉では、時間空間的圧力。 恐らく同じものを指す語だ。
考えてみれば、酷く当たり前の話だった。
私が実験中の事故でここに来たのだから、何らかのそういった異常を調査する人物が居てもおかしくはない。
この島が「多数の次元が混じり合う、混濁した地点」だとするなら、居て当たり前だ。
……無限にある並行世界が全て重なっているのだから、無限の中に1つや2つ、この地点を発見し、解明しようとしていた次元があって当然だろう。
或いは、彼のいた世界では「時空間的圧力」が日常的に起こっていて、子供でも知っているような現象なのかもしれないが。
ともかく「時空圧」にしろ「時空間的圧力」にしろ、それは消えた。
……これは素直に喜ぶべきなのだろうか?
こういった時空間異常の中に居ると「昨日までの自分」と「今の自分」の同一性、連続性に自信が無くなってくる。
……今の私が、ただ「若葉博士」の記憶を詰め込んだだけのクローンじゃないことを願おう。