■ 竜の本性
わたしが住んでいるのは、人の想いがカタチになる街。
強く願えば、目に見えない感情はモノに宿る。
元より存在が曖昧なわたしは、人々から向けられる想いや願いによって
いとも簡単に姿形が変質してしまう。
「──この占いサイト、猫が勝手に動かしてるらしいよ。」
「違う違う。
人の夢を覗けるバクが管理人なんだよ。」
「不思議なくらいよく当たるし、
本当に神様が見守ってくれてるんじゃない!?」
……嗚呼。誰も彼もが、そうやって好き勝手にわたしの事を定義する。
「(あなた達がそう願うのなら、きっとそうなのでしょう。
わたしは──)」
瞼を閉じれば、視界は夜闇の色に染まる。
落ちて行く夕陽と共に、今日のわたしは跡形もなく消えてしまう。
──嘘か本当か判断しかねる時、信じるようにしてる。
別にオレは救われたいから信じる訳じゃねえけども──
「…………。」
ふと、自らが生み出した暗闇の中で
やけに記憶の隅に残っている台詞が頭を過った。
確かあの時語ったのは、自分の名前の由来の話……
時間と共に在り方を変えていく中で、唯一変わらない
わたしの核の部分。
「──獏って英語でタピールって言うんですよ。
知ってました?」
いつか一番最初の自分すら忘れてしまうのが怖いから、
わたしはいつも自分自身の事を名前で呼んだ。
あの人は、まるで夢物語のような話でも信じると言ってくれたけれど……
サングラスの奥の鮮やかな瞳に、わたしはどう映っているのだろう。