Eno.38 白恋たると

■ 竜の本性

 
わたしが住んでいるのは、人の想いがカタチになる街。

強く願えば、目に見えない感情はモノに宿る。

元より存在が曖昧なわたしは、人々から向けられる想いや願いによって
いとも簡単に姿形が変質してしまう。

「──この占いサイト、猫が勝手に動かしてるらしいよ。」

「違う違う。
 人の夢を覗けるバクが管理人なんだよ。」

「不思議なくらいよく当たるし、
 本当に神様が見守ってくれてるんじゃない!?」



……嗚呼。誰も彼もが、そうやって好き勝手にわたしの事を定義する。

「(あなた達がそう願うのなら、きっとそうなのでしょう。
 わたしは──)」



瞼を閉じれば、視界は夜闇の色に染まる。
落ちて行く夕陽と共に、今日のわたしは跡形もなく消えてしまう。


 ──嘘か本当か判断しかねる時、信じるようにしてる。

   別にオレは救われたいから信じる訳じゃねえけども──

「…………。」



ふと、自らが生み出した暗闇の中で
やけに記憶の隅に残っている台詞が頭を過った。

確かあの時語ったのは、自分の名前の由来の話……
時間と共に在り方を変えていく中で、唯一変わらない
わたしの核の部分。

「──獏って英語でタピールって言うんですよ。
 知ってました?」



いつか一番最初の自分すら忘れてしまうのが怖いから、
わたしはいつも自分自身の事を名前で呼んだ。

あの人は、まるで夢物語のような話でも信じると言ってくれたけれど……
サングラスの奥の鮮やかな瞳に、わたしはどう映っているのだろう。