Eno.131 鰄 八尋

■ 漂流四日目:Endgame

どこまで話したかしら?
昨日はたしか、「サメ細胞」の話をしたのよね。

人間にサメの生命力と長寿をもたらす最新の医療技術。
たしかに成果を上げていた。
私自身もその一人。たくさんの生命が救われたわ。

でも、すぐに軍事転用の可能性が模索されるようになった。
パパはあくまで平和利用を訴えたけど、聞く耳を持つ人はいなかった。
どの国の人たちも隣の国を出し抜こうとして、やりすぎたみたい。

「サメ細胞」の過剰投与は、危険に満ちた試みだった。

人体が耐えられる限度を超えたサメ化を強要するんですもの。
ショック症状で死んでしまうか、さもなくば狂暴なサメ人間に成り果てて……
さらに一部の実験体は、純粋なサメをも超えたサメ化に成功してしまった。

それが「シャークヘッド」。サメを超えたサメ。
サメの頭を振り回す、規格外の化物たち。
比類なき暴威の象徴。人類の天敵。世界各地に君臨したサメの諸王。

極東を喰らった「オロチ」に、北米最大の「ポール・バニヤン」。
ペルシアの悪夢「アジ・ダハーカ」。ネームド級にも色々いるけど―――
最初の一体には特別な名前が与えられているわ。

旧来の世界秩序を食い破り、崩壊へと追いやった原初のシャークヘッド。
『レヴィアタン』を殺した「レヴィアタン」。

全部アイツのせいなんだわ。
元はといえばパパのペットで、ご主人様を食べちゃった悪いサメ。
アイツのせいで、世界は「万人の万人に対する闘争」に呑み込まれてしまった。


―――私ね、その「レヴィアタン」に喰われたはずだったの。
だって、私のパパのしたことが世界を滅ぼしたのよ?
みんなにも知られちゃった。帰る場所なんか、もうどこにもなくて。
私なりに責任を取ろうとしたわ。それで……。

目が覚めたらこの島にいた。何とか生きてるし友達もできちゃった。
わからないものね。死ぬにはまだ早いってこと?
この島から生きて出られたとして、どこへ行けっていうのかしら。

困るのよね。この島にいるかぎり、私はただの私でいられる。
ヒロ・カイラギの過ちも、知られずに済むのに。

ええ、自分でもわかってる。
私、帰りたくないって思ってるんだわ。