Eno.224 ナンナ•セファレイエ

■ 何事も備えておくことが大事よね

この島の近くに船が通りかかるって、あの手紙には書いてあった。
でも……あの手紙はいつ書かれたものなのかしら?
あたしは頭があまりよくないけれど、航路が変わってしまうことがあることは知っている。
どれだけ輸送にリスクとコストをかけないか、それが一番頭が痛いことなんだよなあとかパパがよく文句を言ってる。
天候が荒れやすいところ、賊が出やすいところ、化け物やら、野生動物が出やすいところは避けないといけないけど、迂回するとなるとお金と時間がかかっちゃう。
だけど道を整えたり、警備をちゃんとしたり、すんごい後ろ盾ができたり、乗り物を改良したりで、危ない道も危なくなくなったりするんだって。
……だから、昔通ってた船が、違う道を通るようになって、ここを通らない可能性は十分に考えられるでしょう?

この海は穏やかだわ。
化け物の気配もない。
だからあたしのこの考えは、ただの杞憂かもしれない。
だけど沖に出たらまた全然違う顔を見せるかもしれない。

出来るだけの用意はしておいた方がいい
次は……筏よ。
筏を作る。
水も食料も余力がある今のうちに、準備をするのよナンナ。
──天叢雲剣だって、念入りな準備があって初めて強敵をぶった斬れるんだから。

森へ木を集めに行く準備をしようと岩場にいたら、この前ブルーシートを分けてくれた女の人と、ユウリ、そして白っぽい髪の女の子……じゃない男の子が起きてきたから、朝ご飯にイカ焼きをあげたわ。
……そう! 珍しく炭にならなかったのよ! 元々蠢いてたから、蠢きはノーカウントよ!
みんなんまあい!って本当に美味しそうに食べるからあたし、嬉しくなっちゃった。
あたしの料理であそこまで喜んで貰えたのは初めてだわ。
え? 焼くだけだから当然って? いやいやいや難しいのよそれが。
そもそもあたしは料理させてもらえないし(食材への冒涜だーとか言われちゃって)、炭になるか、なんか蠢く変な物体になるかだしで、無人島に来てからも大体炭を食べてたわね。
噛んで飲み込めるなら食べ物って思えるあたしに感謝!
だから基本的に生の状態で渡してたんだけど……案外、人にあげるって考えると頑張れちゃうのかも……?
ユウリは、お返しに貝を2個もくれたけど、昨日貝がいないって言ってたから、これは預かっておくことにするわ。
またいなくなった時に返すわね。
そしてユウリとよく居る女の人にはお返しに木を貰った。名前はイカルガだからルガD……よーし、覚えた!
自己紹介でしっかり肩書きを言ってたから、あたしもちゃんと肩書きをつけて名乗ったら、畏まられちゃった。
あたしは公女ーっていうよりは剣士ーって感じなんだけど。
うん、だから普段はあまり肩書きは言わないようにしてるのよ。公女ーっていうと、前線でやりあえなくなるでしょ?
ルガDはどうやら剣士とか居ないし、冒険もない世界から来たみたい。恐らく吸血鬼とかも居ないんだろうなあって(人間に軽率に明かしちゃダメってきつーく言われてるけど)思って、話したらやっぱり居ないみたい。
警戒されちゃったから、この頃は魚の血を摂ってるよーって言ったけど、うーん……やっぱりダメ? 怖い顔してたからダメかなあと思ったけど、ちゃんと分かってくれた! お魚になっちゃったら、インタビューするんだって! あ、あれ……? お魚になっちゃったらどうやって話せば良いのかしら??

そういえば、時空魔法も使えない人達はどうやってこの島に流されたのかしら?
あたしの魔法が暴発したのもこの島の影響……? 呼ばれたのかしら……?
え? 何か最深部にすっごい強い魔物とか居たりするのかしら??
ええーー……それはそれで楽しみだわ。もしそうなら、こんだけの人間をここに集めるんだもの、すっごい時空魔法を使ってきそうよね!

とと、話が逸れちゃったわ。
白っぽい髪の子は白雨って言うらしい。やっぱり男の子だった!
木をくれたけど、別に森にずっと居るわけじゃなくて、前のあたしみたいに色々と転々として、素材や食料を集める生活をしてたみたい。
協力出来る人が多い方が、お互い助かるものね。
……今日でもうここに飛ばされて5日目かあ。
最初に比べたらうんと、まともに生活できるようになったけど……この島、沈んじゃうんだっけ?
うーん……やっぱり筏は用意しとかないと……。
ルガDと白雨のおかげでお昼には作れそうだけど、お魚とお水の分の木が足りなくなっちゃうから、やっぱり森へ行かなきゃ。