Eno.284 バナナの妖精

■ ギャン中だし自信家だし何より短絡

1

バナナの妖精は、おおむねバナナだがバナナではない。
第一に、長期間腐らない。第二に、動物のように生きて暮らす。
以上、二つの理由からバナナの妖精はバナナではなくバナナの妖精と呼ばれている。

この二つ以外は嫌になる程バナナであり、味は高地栽培のいいやつだった。
よく一山いくらで売られていくのもバナナと一緒だった。

バナナの妖精のひとりである太田原バナナ四郎(4)は持ち前の冒険心を持って
世界各地(主に東京都23区内(田舎者にとって東京都23区を渡り歩く事は大冒険である(バナナ四郎はいわゆる"程よい田舎"の出身だった)))を旅していたが、
路銀が尽きたためアルバイトをする必要に駆られた。

バナナ四郎には書類に書ける定住所がない。そもそも日本における住民基本台帳に登録されていない。(バナナだから)
よってこの場合アルバイトというのは言葉のイメージよりもずっと非合法でリスキーで最悪でキモくてチョベリバなやつであり、
具体的に言えば客船上での非合法なギャンブルであった。
例示的に言えば賭博黙示録カイジのエスポワール号で行われる限定ジャンケンみたいなやつであった。

バナナ四郎は国民保険に加入していないから、カイジみたいに指を切り落とすことになった場合治療が10割負担である負い目がある。
気持ちの部分で他の参加者より不利であるバナナ四郎はボコボコに負けて20億の借金を背負うことになった。

さて、戸籍がなくて短絡的でなによりちいちゃいバナナみたいなやつが20億を払うことは当然不可能である。
払えなかったときどうなるか、バナナ四郎は怖くて結局聞いていない。
バナナ四郎は逃げることを思いつく。甲板から見える海は、人生で一番深い蒼に光っていた。

以上の経緯から、バナナの妖精は無人島に漂着した。


2

バナナの妖精は、おおむねバナナだがバナナではない。
第一に、長期間腐らない。第二に、動物のように生きて暮らす。
この二つ以外は嫌になる程バナナであり、味は高地栽培のいいやつである。

「自衛最優先、第二水、第三食糧」

日本には腹ペコの野良犬・猫はもはやあまりいなかったが、無人島はそうではない。
自分が獣にパクつかれないこと、次に自分が何かをパクつくことを考える必要がある。

そんなことを考えていたらトマトみたいなやつがのうのうと暮らしていたから、
「こいつが無事なら無事だろう」と考えたバナナ四郎はのんびり暮らすことにした。

トマトみたいなやつも、同様に流されてきたらしかった。
タコだったら乗りこなせたのに。


3

「ずっとそこにいるんですか……」

バナナの妖精は生来体内に持つバナナ通信ユニットにより、遠くのバナナ妖精と非発声な通信をすることができた。

「昔夢、遅人生」

「先輩は中学英語すらままならないでしょうが、スローライフのスローというのはティーから始まるスローじゃないんです」

バナナ電波の向こうの友人は、バナナ四郎のことを心配していた。
彼はバナナ四郎の後輩でありつつ、世話焼きな良き友人である。
日本語不得手な性根が曲がった皮肉屋でもあり、トータルではややマイナスだった。

「帰ってきてください。どうにかなるでしょう。希死念慮も含めて」

「元々不求自死。脱出手段無、大変困」

「言い訳でしょう、死物狂いで探してるんですか、そこには他に誰かいないんですか」

「tomato」

「食べ物の話をしてるんじゃないですよ」

「他一人形跡、拠点、生活跡有。」

「じゃあそれも誘って、煙でも立てるんですよ
 近くに船でも通ったらどうにかなるでしょう」

「船嫌!大金大敗、大借金」

「それは先輩がとても馬鹿だからです。なんでグーを買い占めなかったんですか
 次は絶対に勝てます、必勝法があるんです」

彼は自信家のギャンブル中毒でもあった。
これも大きなマイナスであり、バナナ四郎が彼と仲良くなった理由だった。