Eno.224 ナンナ•セファレイエ

■ あ、あれ……

イカダの作り方が分からなくなっちゃった……。
ええ……ついさっきまでわかってたのに……あれ?
どうしようかしら……ああでもないこうでもないって色々と道具を作ったり木をもうちょっと集めてみたりしたけれど結局分からなくて時間だけが過ぎていったわ。

途方に暮れてたら、森とか拠点で会った天使っぽいお兄さん(お兄さんなのかしら?)が材料と鉄の斧が必要ってことを教えてくれたわ。
しかも鉄の斧をくれようとするからびっくりしちゃったわ!
とりあえずイカダを作り終わるまでは借りて、使い終わったら返そうと思う……斧作るのも大変だし、丸太とか枝とかを木にするのにも使うはずだから。
あと、あたしでも飲み込めないお弁当の仕切りに入ってる草を食べてお腹壊してたから、お魚をあげたわ。
あれは流石のあたしでも食べ物じゃ無いってわかるわよ……本当に大丈夫なのかしら……。
街とかも行ったことがない、家族も居ないってことだったし、あの人はやっぱり天使なのかしらね。
でも天使みたいな翼はないし、どこか影があるから堕天使なのかしら……?
剣の修行で篭っているダンジョンで、堕ちた天使は何度も見たことがある。
襲ってくるし、殺さなきゃ殺されるからいつも斬り捨ててきた。
だから堕ちた後のことなんて考えたことがなかったけれど、そうよねえ……人の中で異種族が生きる難しさというか苦労はなんとなくあたしにもわかる。

あたしは吸血鬼だ。
だけど、人の中でも生きられるように、ママにしっかりと人の中での生き方を教わったから、悪戯に人を襲ったりしないし、喉が渇かないようにする術を知っている。
そして、異種族に対する人の畏れも知っている。
だから、小さい頃は勘付かれないように、いろんな場所に移り住んで暮らしたし、出来るだけ人目がつかないようにして暮らしてた。……あたしたちは普通よりずっと早く大きくなったから。
素性を明かして、今朝のルガDのように、警戒の視線を向けられたことは何度もある。
そりゃ怖いわよね。食べられちゃわないか、って怖がる気持ちは分かるわ。
でも不思議よね、人間って。
生きるために動物を殺したり、生かして毛とかお乳を利用したり色々してるのに、自分が被食者になるときは殺されることばかり考えるの。
本当に不思議だわ……どうしてなのかしら?
うーん……今度イナかママに聞いてみようかなあ。

はああ……でもやっぱり吸血鬼って勘付かれるなり敵意向けられるのだけは本当に面倒だわ。
……あたし、剣で戦うのは大好きだけど、下らないことで血が流れるのは大嫌いなのよ。
うっかり素性をバラさないよう注意しないと……この頃生活に余裕が出てきて気が緩みがちで良くないわね。反省反省!
殺意の元は……恐らく最初の日に海水を渡したシスターさん(前線に立つ剣士の務め、殺意の出元を察知するのは朝飯前よ!)
やっぱり聖職者とは相性が悪いのよねえ……と思ってたら、海水のお礼をされた!
うーん? 吸血鬼ってバレたわけではないのかしら?
吸血鬼と言ってもあたしは魔力補給に血が必要なだけのちょっと特殊な吸血鬼だから、一般的な吸血鬼の弱点は効きにくい筈。大丈夫だと思うけど、念のため注意しておくわ。
あんまり、人を疑ったりするの、好きじゃないしね。それに…… 久々のお肉よ!!
筋力増強の大チャンス! このチャンス、逃すわけにはいかないわ!

あ、あと洋服手に入れたわ!
長靴と合わせたら、マテ貝掘りでママがしてた格好みたいになるわね!
暑さ寒さはそこまで苦じゃないけど、そろそろ皮膚がヒリヒリして気にはなってたのよ……海にドボン! する時以外は着るようにしなきゃね。