Eno.92 記憶喪失太郎

■ 行間5

というわけで、わたしは自分のお店をオープンしたのでした。


……全然違うけどね。うん、全然ぼくの店ではない……島にはマネキンがいっぱい落ちてるから、とにかく拾ったものをイジイジして飾っているだけなんだ。
売ってるわけでもなく欲しければ持っていっていいし……
それはどうでもいんだけど。

こう、店を構えていても自分にはまったくピンとこない。知っていることなワケだし、働いてるっぽい状態にしたら何かあるかと思ったのに。
あるじゃん、過去の出来事と紐づいてさ……知らない景色のこと思い出すとか……知らない人の顔が思い浮かぶとか……
そういうのここ来てから一切ないじゃん……
よくあるじゃん、ってこととか、どうでもいいことは何かわかるのにさ。

作ったこの店は、外装は適当な枝とかだし、中身は服やら大量のメガホンやら魚やら、何をコンセプトにしているのかわかんないかんじだ。
つまりは僕はこれなんだ。

それで、焦る気持ちはあるんだけど、でももっとイヤなのは、全然一生懸命思い出そうって気になれないとこ!
スマホのロックはもうだいぶ放置している。色んなパターン、試したら当たるかもしれない。のに。のに!
全然やる気が出てこない!暇はわりとあるんだよ?


考えてみたんだ。理由がなくても自然と、決定的に何かが分かることを回避する理由。
つまり、……私は何も思い出したくないんじゃないですか。

「これってなんか、ロクでもないよなぁ……」