Eno.83 なにかの群

■ なにかと出航

風向き。海流。あるいはその他、人が持たぬ感覚によって知り得る何かか。
それらは唐突に気が付き、知った。

今なら筏で出航できると。

筏。
丸太を組んで帆を張った、船と呼ぶにはあまりに粗末な代物。
どうにか作り出したそれを、群はずっと持っていた。

いつかこうして、旅立つ日の為にである。


それらはものを考えていたのだろうか。
仲間の為に──共に流れ着いた四人の為に、付近の別の島を探そうと?
あるいは、群だけで逃げ出してしまおうと?

それを知るすべはない。
だが、それらは筏ひとつで漕ぎ出でた。
ここではないどこかに必ずあるはずの、楽土を目指して。


…………






    ~♪~




    ぶなの森の葉隠れに
    宴寿ひ 賑はしや

    松明明く 照らしつつ
    木の葉敷きてうついする



    これぞ流浪の人の群れ
    眼光り髪清ら

    ニイルの水に浸されて
    きららきらら輝けり



    燃ゆる火を囲みつつ
    強く猛き男やすらふ

    女立ちて忙がしく
    酒を酌みて差しめぐる



    歌い騒ぐそが中に
    南の邦恋ふるあり

    悩み払う祈言を
    語り告げる嫗あり



    愛し乙女舞い出でつ
    松明明く照り渡る

    管絃の響き賑はしく
    連れ立ちて舞ひ遊ぶ




    既に歌ひ疲れてや
    眠りを誘ふ夜の風

    慣れし故郷を放たれて
    夢に楽土求めたり



    東空の白みては
    夜の姿かき失せぬ

    ねぐら離れ鳥鳴けば
    いづこ行くか流浪の民



    いづこ行くか流浪の民
    いづこ行くか流浪の民




    流浪の民














    続