Eno.195 小鳥遊ユウリ

■ 臆病者の独白

真夜中を待ってからこっそりと抜け出した。
この時間の岩場は冷えた夜風が心地良くて好きだ。
人気の無い場所まで来て、そこそこ高い岩の上に一人で座る。
釣りが出来ればもう少し気を逸らせたんだけど……
魚が居ないんじゃ仕方が無いから海でも眺める事にした。

ここに来て、今日で五日ほど。
自分の部屋なんて贅沢はないこの場所だと、
どうしても気が抜けなくて困る事がたまにあった。
一緒に行動したい相手が、一番バレたくない相手でもあるから、余計に。

持ってきたのは自分の荷物の中でもほんの少し。
もっと言えばこの島に流れ着いた時に持っていたものだけ。
あんまり大荷物だと音を立ててしまいそうで怖かったし、
あたしが"そう"したいと思った時は大体いつもこれしか持ってなかったから。

来た時に持ってた携帯食料は食べちゃったから、荷物は二つだけ。
何とか水没を免れた携帯電話。それと、ケースに入ったままの眼鏡
――これは元々、でぃれくたーと出会う前に掛けていたものだ。
今はアイドルをやってる都合上コンタクトで済ませるようにしてるけど。

本来これは隠すほど大したものじゃない。
でもあたしは臆病者だから、この島の誰にもこれを見せてない。
このまま数日程ならまだ残ったコンタクトで何とかなるのもあったけど、
これはあたしの過去の象徴みたいなものでもあるから。

こうやって箱を開けて、振り返るたび惨めな気分にさせられる。
けれどこうしないとあたしはあたしを保っていられないのだ。



「――ねぇ、×××。あたし、どうすれば良いのかな」


答えは何も返ってこない。当たり前だ。あの子は此処に居ないんだから。