Eno.205 砂介仁

■ 夢

ざざー…ん。ざざー…ん。


波の音が聞こえる。
じわりと汗ばむ体を潮風が撫でて。
絶妙な不快感を残したまま去ってゆく。

「――――」

誰かの声が聞こえた。
すぐ、近いところ。

「……いー」

「さかいー」

瞼を開ければ、そこには、天使がいた。
太陽の光を浴びてきらきらと。
金の髪が、白い羽根が、輝いて。

眩しい。

俺が起きたことに気付いた天使が、
こちらに手を伸ばす。
―――触れたら消えてしまわないだろうか。
その手を、そっと取って。
―――なんて不安は杞憂で終わる。

起き上がる。
手を引かれるまま歩を進めれば、見慣れた砂浜へ。

いつもの場所には、あすかさんや、冰さんや、ウィンザーさんがいて。
それから、少し離れたところにはっきりとした姿ではないものの謎の人物Xさんもいた。
朝ご飯なのか、魚か何かを焼いているようだった。
楽しそうに談笑をしている姿が微笑ましい。
真夏なのに、そこには心地のよいあたたかさを感じた。

手を引いたままの天使が、こちらを振り返る。
いつも通りの、ふわふわとした笑みを浮かべて。

その顔を見ていると、なんだか不思議な感覚がする。
なんだかいっそう、あたたかな気分になるような。
ずっと、その笑顔を見ていたい、ような。


……ああ、そうか。
そうなんだろうなぁ。





どうやら俺は、この天使に。
えくねさんに、恋をしているらしい。