Eno.207 南波リスコ

■ こわくなる


食糧や物資が、だいぶ安定してきた。

あの釣竿を回していた夜を思い出すと、
ずいぶん豊かな環境になったといえる。

罠には、森の生き物が引っかかっていた。

よっしゃ。
ちょうど魚にも飽きてきたところ。

…………。
なんて、慣れてきたな。

みんな、楽しくサバイバル、してるけど。
帰る家が、待ってるんじゃないのかな。

家の人とか、友達とか、恋人とか。
遭難したって、心配してるんじゃないのかな。

時折、こわくなる。

わたしが死んだと思われてて。
みんなが悲しんでいるところ想像して。


もう、
葬式とかあげられてたりして。

はは。




ねえ、
わたし生きてるよ。

次のタイトル戦も勝つよ。
かならず帰るよ。
もっかい商店のコロッケ食べるよ。

ねえ。
どうかわたしを死んだことにしないで。

わたしのことを忘れないで。

わたしの帰りを諦めないで。



…………。

こわくなる。

周りの海が、永遠に思えて。


こわくなる。

一生、この島にいる自分を、想像して。


あ。
わたし。


帰りたいんだ。