Eno.291 海賊

■ 大海賊バルディッシュ・バルバロッサ様の冒険記5

ハッハッハァ! 呪いが解けたぜ!

……と言いてぇところだが、これはそんなに簡単な話じゃねぇ。

まず俺の呪いは確かに解けてる。今現在はな。
手足には肉がついてるし、鏡を見りゃ見知ったハンサム顔が見返してくる。

問題は呪いが解けた切っ掛けの方だ。




俺は例の森に潜んでるとかいう野蛮人とやり合った。
それと言うのも、奴と俺の間には元々因縁があったからだ。

何を隠そう。
俺がここへ来る直前に宝探しをしてた島ってのがあの野蛮人が居た島で、

俺が頂戴した汚ぇ鍋は
奴等の一族がやたらと大事に守ってやがった秘宝だ。

俺は秘宝を奪い、奴はそれを追いかけ、
結果俺と奴はどちらも海に落ちた。
そんで二人して同じ島に流れ着いたってわけだ。

俺は後顧の憂いを断とうと奴の所へ自分から出向いた。



だが結果的に言やそれは失敗だった。

良いところまで追い詰めたんだがつまらねぇドジを踏んじまって
鍋を奪い返されちまったんだ。

その結果俺は呪いからは解放されたが、
肝心の宝がねぇんじゃ話にならねぇ。

呪いは確かに厄介だが、それ以上に宝を諦める方が俺にとっちゃ大損害だ。

もちろんくだらねぇ紛い物や欲しくもなんともねぇ品なら良いが、
呪いが本物である以上あれはちゃんとしたお宝ってことになる。

呪いくれぇでやすやすと宝を諦める腰抜けなんざ、俺のなりてぇ海賊じゃねぇ。



つーわけだから、俺はもう一度あの宝を野蛮人から奪うことにした。

その為の準備にゃちっと手間をかけたが、
ノコノコと俺の様子を見物に来やがったジジイやガキどもに手伝わせたから
それほど時間はかからなかった。



にしてもあいつら、海賊に対する態度ってもんがなってねぇ。
海賊を前にすりゃ怯えて命乞いをすんのがセオリーってもんだろ?
だがあいつらはまるで船員<クルー>みてぇに俺と対等に口を利きやがる。

ジジイはいつまでも俺の名前を間違えて呼びやがる。
あれもうワザとだろ流石に。じゃなかったらボケが始まってるに違ぇねぇ。

黒髪の そうだな比較的笑う方のガキは、
俺のことをちゃんと怖ぇと抜かすくせに平気で近付いてくるわ骨の方が良いだの抜かすわ。

黒髪のむすっとした方のガキは俺の服をタオル代わりにしやがるし。
からかわれて膨れる辺り警戒心の薄いガキそのものだ。

あと牛。牛は本来命乞いとか関係ねぇけどあのバカ牛。
あいつ食いすぎだろ。目の前にある食い物全部平らげる勢いじゃねぇか?
明日は頼むから邪魔してくれるなよ。



おっと余計なことまで書いちまったが、
とにかく明日の夜にでも奴の塒に忍び込んで宝を奪ってきてやる。
奴のほえ面……は面つけてるから見れねぇが、
悔しがるサマが目に浮かぶぜ。