Eno.83 なにかの群

■ なにかと人間

それらは、人の隣人である。
人ではないが、便宜上そう呼ぶ。

いつどのようにして生まれたのか、
ほとんどすべての生物が知らないように、彼らもまた知らなかった。
人の世界とは膜一枚隔てた向こう、あるいは深く暗い淵を挟んだ向こう側、
彼岸と此岸、同じ世界の裏表に分かれ、それでも人の傍近くに、それらは居た。

彼らはさまざまな姿をし、特徴もばらばらだったけれど
人の傍近くに暮らすことだけは同じだった。

人の死骸に集り。
乳飲み子に朝露を与え。
迷い込んだ旅人を食らい。
災害を警告し。
蔵の米を食い尽くし。
迷い込んだ子供を攫い。
あるいは、元の土地へ帰したり。

これらはそういったモノ。
善悪を超え、好悪すらも無関係に、ただただ、"共生"するモノ。
土地に根付いた、隣人の概念。
理解し尽くせなくとも並び立つ、人以外のなにか。



あなたがそれらを知ろうとするなら、
このばけものもまた、あなたを知ろうとするだろう。
悠久の昔より、人の隣人として暮らしてきた
今もまた、そうあるべく生きているゆえに。