■ にゅ
「にゅ」
中身が殆ど無くなり、ぺったんこになったクッションの中、それは目覚めた。
この中に居続けた事で、水分が保たれ乾燥する事が避けられたのだろう。
ヒドラは、身体の一部が分裂して仲間を増やす。
脆く弱い幼体を守る為にここに詰め込まれたのだろうか?
この個体はそんな事を考える知能を備えていなかったし、
親にあたる個体もそんな事を考えていたかは分からない。
クッションの裂け目から顔を出し、ぴろりと抜け出す。
色々な知らないモノと一緒に、更に布に包まれた空間らしい。
「にに、にゅにゅ」
仲間や、親の個体の姿はない。外で待っているのだろうか?
モノを押し分けて外へ出ようとする。中は相当に狭かったが、
器用に身体を滑り込ませ、押し込みながら。
「ぶにゅっ」
ふんわりと包まれた布の隙間から飛び出し、転がる。
──雨が降っていた。
この分なら、しばらくは干からびてしまう事はなさそうだ。
「にゅにゅい」
気持ち良さげに転がり、のたくる。
──気が済んだら、仲間を探しに行ってみようか?