Eno.20 えくね

■ きろく はち

―― 誰かの言葉が、其処に残されている。      ――

「違う事がー。違う様に、在る事が、必要なのでしたらー。」



「それは、"私"だろうか。」


感情の抑揚は、なだらかに。
それでも、皆を柔らかに見詰める声で。

「それは、"わたくし"でしょうか。」


己が世界を、崩さず。
変わらないことで、時には誰かを変える声で。

「それは、"僕"かも知れないね。」


誰にも侵されない、自分を持ち。
しかしそれでも、変わる事の出来る強さを持つ声で。

「それは、"俺"なのだろうか。」


共に在る人達が居れば、また歩き出せる
失っても取り戻せるのだと、希望を示す声で。

「それは、"オレ"じゃあねぇよ。」


諦めてしまったのかも、知れないけれど。
確かに其処に居て、想いを残した声で。


全て、何も変わらぬ、何時もの声。
しかし、誰かがその声を、聞いて居れば。
その声の向こうに、誰かを見ただろう。

そんな、独り言が、暫し途切れて。

「――誰でも無い"えくね"は、在るのでしょうかー。」


ぽつり呟き、寝息に変わる。