■ 幽霊列車
「……此処は」
波の音が聴こえる。
意識が醒めて瞼を開いた瞬間、目の前に広がるのは見知らぬ海岸だった。
「(……わたしの住んでいる街じゃない)」
昨日の事は、あまりよく覚えていないけれど。
文字が掠れた曖昧な標識に、チカチカと点滅するネオン看板。
いつもと同じように家路を辿り、地下鉄に乗ったところまでは思い出せる。
一瞬で過ぎ去るはずの真っ暗なトンネルが、あの時は妙に長く感じて……
きっとわたしは、電車に揺られるうちに眠ってしまったのだ。
──ああ、そうか。
「たるとは……
乗り違えてしまったのですね」
遠い昔に聞いたことがある。
悪い子の前に現れて、乗ればたちまち遠くに連れ去ってしまう
『神隠しの列車』の噂を。
きっと自分は普段から嘘ばかり付いているせいで、バチが当たってしまったのだ──
なんて、誰にも言えないけれど。
視界の端に、太陽の光を反射して輝く小瓶が見える。
ひとまずは立ち上がり、歩き出さなければ何も始まらないだろう。
溜め息と一緒に、口から青い炎を吐いた。