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■ 朝から昼にかけて

 
 船は、まだ見えない。
 一日動くのが早かったかもしれない。
 でも一日でも早くサバイバル生活を終わりにしてあげたい。

 とは思うのだけど、私はここで船を待つことしかできない。
 曇り空を、抜けるような青空にする力だってない。

 船はまだ来ない。










 こつ、こつと靴を鳴らして歩く 

 暫く歩いていたら、ほら 見えてくる 


 水妖が背を丸めて蹲り、顔を覆っている醜悪なその姿 


「どうかしたの?」

 問いかけてもそれはぐずるばかりだ 

 なのでゆっくりと、それを中心にして廻るように歩き出す 


「……」


「さびしくないよ」

「さびしいと思うからさびしくなるんだよ」


 嘘じゃない 


「全部、考え方次第なんだ」

「ともだちができたって私は私だ」

「私の状況はなにひとつ変わらないし、私の本質だって変わってない」


「ひとりぼっちじゃなくなった、なんて錯覚なんだ」

 …視界の隅で咲く、黄色の花が嘲笑っている気がする 


 それでも、 


「私は、saviorだから」


「それは私の名前じゃない」


「私の名前は 救世主 なんかじゃない」



「……あぁ」


 みっともない夢だ、と思いながら 
 一度止めてしまった足を再び動かした。


「ただの人魚で在れたなら、どれほど楽だっただろう」