Eno.416 鮒 伊豆

■ 回想

初めて刃の魅力に気づいたのは、9歳の時。生物学的な父にあたる男が激昂した見知らぬ女に刺された時だったと思う。よくある話、痴情の縺れ、というやつ。

夕陽を受けて光る艶かしい銀をよく覚えている。
それが己の皮膚に食い込んだ時の熱さも。

数度の刺突と悲鳴と、たったそれだけで強者で脅威であった筈の男は簡単に動かないモノになってしまった。

─あんな美しい物で死ねたのだから、さぞしあわせであったはずだ。