Eno.437 水鳥川 紅信

■ 悪夢②

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『もうあの子にお前は必要無いんだよ』
悪魔の囁く声がする。
俺はこの人の事を識っているようで知らない。
『ああ、そのままでいい。思い出そうとするな。
ㅤ蛇足にしかならないよ。』
頭を振った、誰か。

俺は本当に帰るべきなのだろうか?

『その答えに俺が答える義理はないけど。
ㅤただきっと、もうお前がいなくとも
ㅤあの子は生きていけるよ。』
小さな小さな幼い少女。
清らかで純新無垢で、汚れたものを知らない少女。
あの子を守ってあげられるのは、
俺しかいなかったはずなのに。
『お前は何も変わってないんだな。』
……それは、どういう
『お前がそうして抑圧した。
ㅤ“綺麗であれ”と呪いをかけた!
ㅤだからあの子は反発した。もう堪え切れなかった。』
そんな訳ない
『でも実際そうだった。
ㅤお前が気付いていなかっただけで。
ㅤあの子が悟らせまいとしただけで。』
そんな素振り一度もなかった
『本当か?
ㅤではあの子の父親が突如軟化した理由は?
ㅤ知らないだろう。
ㅤそりゃあそうだ、だって言ってないもの。』
俺の知らない、ナニカ。
中学の頃、突如郁弥さんが豹変した、あの日。
あの前日に、何かがあったのか?
『あったとしても、言う気はねえよ。
ㅤ自分で聞きな。』

帰りたい。
海の向こうからあの子が呼んでる気がする。
何があろうと、それでも。
あの子の元へ行かなくちゃいけない────




『セイレーンがお前を手招きしているよ』


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