Eno.2 アキノキ

■ ## 異色目の三毛猫

アキノキは異色の目を持つオスの三毛猫である。
故郷では王子として育てられてきて――

――そして、物語の主人公だった。



切っ掛けは海。
家族と初めて来たそこは塩辛く、生暖かい水で満ちていた。
覚えたての泳ぎで遠く、遠くまで進んで。
そうして世界の端を知った。

大地は亀の甲羅に作られているとか、
海の果ては滝になっているとか。
そういった噂は聞いていたものの、まさか透明な壁があるとは思わなかった。
そして、その向こう側に目があることも。

指先が硬い壁に当たり、自らの顔が朧気に映る。
影が差せばその像は消え、向こう側が顕になった。
視界の先には獣の耳がないヒト、ヒト、ヒト。
全てがこちらを見つめ、瞳を輝かせている。
それがとても恐ろしく、気味が悪かった。
その後の事は覚えていない。
というより、意識も記憶も無くなっていた。
夢に呑まれていたかのように。

夢で見たものを確かめる為に、様々な道具を作った。
筏にオール、重いハンマー。
その全ては気付けば猫のモチーフが付いていた。

暗い海に筏を浮かべ、硬い世界の端に辿り着く。
力いっぱい壁を叩くとヒビが入った。
僕は二度、三度、何度も何度も壁へハンマーを叩きつける。

やがて甲高い音と共に、巨大な壁が割れる。
壁の向こう側へ流れ出す海水、
ひんやりとしたカビ臭い空気。

最後に覚えているのは、そこに居る人々がみな、猫のモチーフが付いた玩具のハンマーを持っていた事だった。