Eno.224 ナンナ•セファレイエ

■ ……足を止めたら、息が出来なくなるの

足を止めたら、いつも目を逸らしていることが一気にうわーっと襲い掛かってくる。
だからあたしは後ろを振り返らない、足を止めない。
あたしには、いや……あたしにしか出来ないこと、あたしが背負わないといけないことがあるから、迷ってなんて居られないの。

あたし達はみんな違う力を継いで生まれてきた。
おにーちゃんはママの力、あたしはパパの片方の力、そしてイナはあたしが継がなかった……パパの悪い方の力を。
おにーちゃんもちょっとだけ、パパの悪い方の力を継いでるのだけれど、パパのパパのパパ……えーっと、曾祖父ちゃんって言うのかしら? が言うには、おにーちゃんの方は心配はいらないけど、イナは……あたしにしかどうすることも出来ないらしい。
パパが生きている間は、パパが引き受けてくれるから大丈夫だけど、パパが居なくなった後……その後はあたしがどうにかするしかない、そう……言われた。
どうにかするって…………そうね、楽にしてあげるってことよ。

あたしの剣術は、パパやイナを苦しめる悪い神様を斬るためのもの。
あたしの剣の素質も、かつて神様を斬ったご先祖様の血によるもの。
……。
イナを楽に出来るのは、現状あたししか居ないんだって。

あたしは人のために剣を振るうのは好きよ。
悪いものを着るために振るう剣は最高に気持ちいい。
でも……悪い神様が憑いてる人は……本当に悪いものなのかしら?
……。
あたしは……その時が来たら、迷わずイナを斬れるのかしら。

…………。
あたしは絶対に帰らないといけない。
イナのためにも、家族のためにも……そして自分自身のためにも。
──あたしには帰る場所が、あるのだから。