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■ 夜

 
 船はこない。

 水、は不足していると言うよりは生成が追いついていないだけだろう。
 問題は食糧か。

 今迄くらげ被害や、危険物の漂流は……ありはしたけど、割れたガラスとか。
 へたに動き回ると怪我しそうだ。
 けど、渡した分でどうにかなる気は全くしない。
 そも自分が食べる分とか全く考えずに全部渡したし。
 私はまた自分の分を、いや

 もうたべなくていいか。










「……」



 頭の中が、静かになった。
 心の中も、静かになった。



 私、は私を貫く十字架を抜かない 


 これで悪い夢も終わりだと思ったのに 
 覚めても気付けば眠ってて、ここに戻る 

 痛くも苦しくもないし 
 悲しくもなければさびしくもないけど 

 黄色の花びらにまみれた手で、なきやんだ私の頭を撫でる 



「……?」


 何か、が頭の上にあった 


 何かを触れた手でそれを持って、自分の前に運ぶ 

 黒い、薔薇の花冠だった 

 とげはそのままに編まれたものらしく 
 ぽた、ぽたと指から赤いどろどろしたものが滴った 


 なんとなく 
 そう、なんとなく これは自分が被るものだと思った 

 …思った、時には既に自身の頭に乗せていたのだけれども 


「痛くないよ」

「さびしくもないし、苦しくもない」

「私は私の機嫌のとりかた、わかるから」


 ふと、足元を見る 


 黄色の花畑だったはずのそこは 


 黄色の花を押し退けて、黒い薔薇がぽつりぽつりと咲いていた 


 もう 黄色の花畑とは言えないな