■ 無題
…『桜古宮』。
その名は有名無実化して久しい。
元は大いなるものの名だった。
滅びの美しさに酔いしれることなく未来を求める人々の味方。
今日と明日を、未来を覆い尽くし滅ぼさんとする闇なる魔と戦う者。
そのなかのひとつに、『桜古宮』は在った。
その者が果てたとき、志と名を託した相手が居た。
名すら持たぬ外様の■。
流れで人の側についたらしい、真の味方であるかどうか
多くが判断付かなかった者。
それでも『桜古宮』は信じて託し、名無しの■はそれに応えた。
力も技も知恵も『桜古宮』に及びはしない名無しの■。
それでもその心には、真同じの光があった。
明日を求める人々を気に入って、共に戦うと決めた心。
不屈の闘志、尽きぬ灯火、輝く戦士の心があった。
争いの末。
闇は封じられ、未来は拓かれた。
―――それは、遥か昔のこと。
ひとならざるもの達にとってすらも、遠い昔のこと。
長い長い時の中で、桜古宮の名を継いだ■の系譜は衰えた。
及ばぬと言えど強大であった力は殆ど潰え
物理を超越した御業を振るうことは叶わず。
物理でさえ人の域を出ることが無く、人外として生きるにはあまりにも非力すぎる。
故に、ふとした拍子に弱き者として滅ぼされるだろう
若くあり続けすぎるがゆえに、人の世には適さない。
『強くない希少なモノ』として世の闇の奥深くに囚われるだろう。
厳しい立場の存在。
運良く強大な魔の保護下にあったからこそ、彼は無事健やかに生きてきた。
―――
…保護する者はある時から考え続けている。
もし私が先に滅びてしまったら、彼の未来はどこへ向かうのか。
恒久的に救う方法は無いのか。
彼が生きるには、この世界はあまりにも都合が悪すぎる。
世が変わるのは遠すぎて
世を変えるには何もかもが足りていない。
…先に滅びるわけは無いが、未来とはわからないもの故。
―――
我が友の末裔、色味以外の面影は薄れてきたが。
あなたが遺したものだからこそ、絶えるまで面倒見てやるつもりだよ。
―――
「店長?」
「――…葉銀くん、また左手が後ろだよ」
「申し訳ありません!!!!」
「いいさ。その顔を見るために指摘しているようなものだから」
「諦めていらっしゃいます!?」
「いいや、進歩しているからだよ―――…
………