Eno.155 Иван А. Гладский

■ 備忘録-悪夢-

原因不明と医学に見捨てられた以上、何にでも頼りたい彼らが胡散臭い方面に行くのは時間の問題だった。
異形の腕を「悪魔」と断じる自称対魔士の小男が両親の寄る辺となった。
小男は妹の服を脱がせて身体を弄っては、聖水と称した水のようなものと封印を謳ったシールを黒い腕にべたべたと付着させて長期的な「悪魔祓い」を試みているようだ。
処置部位を見れば一発でインチキとわかるような稚拙なもの。しかし、それでも彼らはしょうもない悪魔の調子いい発言を妄信して、そこに決して安くない金をつぎ込み始めたのだ。

凶暴化は悪魔の仕業、大人しくなれば処置のおかげ。そう考えれば幸せだ。
子供騙しのような幼稚な行為を冷めた目で見つめる子供たちを他所に、それでも娘のためならと健気に悪魔へ布施をする愚かな両親、目に見えてみすぼらしくなっていく家の様子。
父親は禁酒と禁煙に成功し、母親も見違えるほどスリムになったが、誰一人として喜びはしなかった。

両親が施行を停止してしまったのを他所に、僕は僕で独自の調査をネット上に頼って続けた。
海外の論文にまで翻訳を駆使して手を伸ばし、そしてようやくそれらしい寄生生物の存在に行きついた。
妹に頼み込んで寄生部位に関しての確認を取ると、調べれば調べるだけ共通点が色濃く滲み出てくる気がした。

これを調べれば、もっと正確な詳細が分かれば……妹のみならず、両親の正気も取り戻せるものだと信じて動いた。しかし確認できた範囲の情報量で分かることはせいぜい外見的な特徴や寄生の進行具合止まりで、解決策や対処法などはどこにも載っていない。
僕はネットにのめりこんだ。より詳しい情報がどこかに転がっていないか、妹を救う手立てはないのかと。それこそ寝る間も惜しんで情報の収集に邁進した。

……しかし、今思い返せばそれも重大な失敗だったのだろう。
直接寄り添う味方を喪った妹は、夏休み終わりと同時に親の金をくすねて失踪、行方をくらませたのだ。