Eno.207 南波リスコ

■ 島に残る

昨日のこと。
救助された先の話を、すこしだけした。




きっこは、この島の暮らしを夏休みとして楽しんでいた。
島を出ても、一緒にお出かけ出来たらいいのに、って。

家出中と言っていたけれど、そろそろ家が恋しくなるもんじゃない?
小学生の家出って、一日二日でおしまいって。

……そういうもんじゃないの?


……………………や。

小学生だからと言って、決めつけちゃいけないのかも。
大人と同じように、それぞれの事情があるって。


わかっているようで、
わたしはきっと、わかっていない。


きっこのこと。
もっと、知りたいのに。

子どもだから、ってフィルターがじゃまで。
ちゃんとわかって、あげられてない。

どうしたら、わかるだろう。

がんばりやの、あの子のこと。
あの子の、未来のこと。




そんなこと考えながら釣りしてたら、今日すっ転んだんだけどね。
手当てキット、もらえて助かったー。



おっと。救助の話だ。


カミサマは、船が来ても人に怖がられるから船に乗れないって言ってた。

…………ん。

そりゃ、そうだよね。
わたしも初めて見た時、その身体の大きさと尻尾に、夢かと思った。

この島に住む不思議な…
この世のもんとかじゃない、カミサマみたいなものだって。

この島で会ったから、受け入れただけで。
わたしも街中で見たら、すごくびっくりしていただろう。



……カミサマは翼をけがして、飛べないんだって。
それが治るまで、この島にしばらく居るって。



……。
それきいて、わたし、咄嗟に言っちゃったんだ。

「けが治るまで一緒にいるよ」って。




おかしいよね。
帰る話、してたのに。
帰りたいって思ってんのに。


カミサマがひとりで島にのこってる姿想像して。
…………耐えられなかった。


カミサマの身体は、3メートルぐらいあるし。
カミサマの尻尾は、サメをへし折れるし。
たぶん人間なんて、ひとたまりもなくつぶれて死ぬ。



でも、なんか。


守んなきゃって思ったんだ。



殴るとか、倒すとか、そういうんじゃなくて。

そういうんじゃない強さの種類が、たくさんあって。

だから、そういう……。


…………。

だめだ。うまく書けない。
ちゃんと書かないと、わかんないままなのに。

わかんないままに、したくないのに。


…………。



カミサマの名前、シャハルというらしい。
きっこと一緒に、そのおおきなモフモフを抱きしめた。

シャハルの背中の大きな花の模様は、不思議なかんじがした。




……大丈夫。
島は沈まない。

……大丈夫。
きっと七日目を過ぎても、次の七日目まで生き延びられる。

……大丈夫。
わたし、死なない。


……こわくない。

と、言うと、嘘になるけど。



ひとつ、わかるのは。


怪我をしたシャハルを置いていくのは、
もっと嘘になる気がしたということ。