Eno.218 八〇七番

■ 記録

おさかなさんのことを、考えている。

きっと、おさかなさんにとって、この島はあまり良い場所ではなかったのだと思う。
僕はおさかなさんが、かつて、どこで暮らしていたのかを知らない。
けれど、多分、この島はおさかなさんに合った場所ではなかったのだと、思う。
それに気づいたのが、本当に、今になってからなのは不甲斐ない。
あれだけ、同じ場所で時間を過ごしていたのに、本当に、僕はどうしようもなく馬鹿だ。
おさかなさんの厚意を受け入れて、頼り切って、その時間が心地よいと思ってしまっただけに、余計に。

それに、ここに僕がいたというのが、何よりもよくなかったのだと、思う。
僕は、おさかなさんのことを、何も、考えてはいなかった。
おさかなさんがどこから来て、どこに行こうとしているのかも、知らないまま。
ただ、「その方がいい」と思って、色々なことを、してしまった。
言葉を教えて、僕が勝手に「よい」と思った考えを押し付けて、それで。
おさかなさんには、おさかなさんの正しさがあって、秩序がある、はずで。
僕は、そのことをまるで理解できないまま、ともに、過ごしてしまった。

少しでも、この島を離れがたいと、僕らと別れがたいと、思わせてしまっていたなら。
それで、もし、おさかなさんが、帰るべき場所に帰れなくなってしまったら。
……その責任の一端は、僕にないとは口が裂けても言えない。そういうことだ。

それとも、別れがたいなんて思っているのは、僕ひとりだろうか。
……そうであるなら、むしろ、気が楽でよいのだけど。