Eno.38 白恋たると

■ たるとが生まれた日【前】

 
社長さんが不死身だという話は、島で出会って間もない頃に聞いた。
わたしと同じですね、なんて言葉を口にしたのを覚えている。

人間でも動物でも、或いは無機物でもなく──
人々が抱く『夢』から生まれたわたしは、自分自身の定義がとても曖昧だ。
幽霊よりも不安定な存在のまま、ずっと長くこの世に存在している。

生きているのか死んでいるのかもわからない。
ただただ人々に求められるまま、わたしは毎日ホログラムの水晶と向かい合った。

『異常なまでによく当たる』と世間で噂の、占いサイトの管理人として。
言い方を変えれば、迷える人々に『決まった正解』を与える神として。

「進む道を見失ってしまったのですね……
 可哀想に。」

「もう心配要りませんよ。
 わたしがあなたの事を導いて差し上げましょう。」



けれど、占いが確実に当たるだなんて…… そんな妙な話には必ず裏がある。

言ってしまえば、こんなのは占いじゃない。
全部イカサマだった。

「行き先に迷ってしまった人が居るのなら……
 わたしがこっそり正解の道を教えて、
 助けてあげたい。

「どんなに小さな迷いだっていい。
 苦しんでいる人を救いたいの……
 わたしはそのための力を持ってるんだから!



一番最初の幼いわたしは、
確かそんな事を思っていたような気がする。

元々は『誰にでも都合の良い結果が出る』──
つまりはただのありがちな占いサイトだったものを、わたしは善意で歪めてしまった。
そんなの、軽い気持ちでしてはいけない事だった。

きっと…… あの日から全てがおかしくなってしまったのだ。