■ 昔の思い出
初めて実験をさせられた時、研究所の人達が喜んでくれた事を忘れる日はないだろう。
愛しなさいと言われた相手は嬉しいのか震えてた。
何度も殴ると涙を流しながら俺に縋りついた。
涙には悲しい時と嬉しい時に出るって教えてもらったから、これは愛されて嬉しい涙だと思う。
でも殴り過ぎは痛いから良くない、とも教えられたからその後は痛かったねって撫でて抱きしめてあげた。
相手はやっぱり泣いていた、これも嬉しい涙かな?
暫くしてから俺は気持ちが弱っているらしい相手に色んな手を使い、甲斐甲斐しくお世話をして心を開かせた。
俺と俺は同じ顔だから殴られた時の記憶が過ぎるのか最初は複雑な表情をしていたなぁ。
それでも何日も続けば俺と俺は別人だと思ったのか、俺とは口数が多くなっていった。
あぁ、信用されてる。
濃密な出来事だらけの閉鎖空間に数日も過ごせば人は皆変わっていく。
実験の後半になると皆、俺に好意を抱く。
殴る事も実験の一つだから許して、と本当はやりたくない素振りを見せれば信用してくれた。
俺を警戒しなくなった。
そうなってしまえば後は人間がするそれらしい事をすれば心の中まで溶かされていく。
俺達なりの愛し方をしてきたけれど、ここまで来て漸く相手の思う愛し方を受け入れる。
全て丸裸になれば全ては終わりを告げる。
一週間かけて全てを手に入れる、この先も手にしたままかというとそうじゃない。
実験が終わればその人は研究所に連れて行かれる。
俺とはお別れだ。
ああ、沢山愛し合ったのに全員何処かに連れて行かれる。
実験は成功しているのに愛が手元に残らない寂しさだけは、いつも慣れなかった。