Eno.195 小鳥遊ユウリ

■ ほんの少しの羨望

今日は珍しく、森の中で一夜を明かした。
月の光すら入らない木々の間には、獣の声と風の音だけ。
人の世界から切り離されて迷い込んじゃったみたいで。
景色に青が無い分あの子の姿を思い出す事はなかったけれど、
それはそれで少し心細いような気持ちになったりした。

それから。
結局朝になっても岩場には戻らなかった。
アルワちゃんもチックちゃんも、真面目な話をしてたみたいだし
そこにあたしの入る隙間があるとは思えなかったから。
普段は賑やかな二人のあんなに静かな姿を見るのは初めてで。
だからきっと、お互いにしか知らない話をしてるんだろうなって。

あたしにはそれがちょっと羨ましかったりする。
臆病すぎるだけなのかもしれないけど、どうしても嫌われるのが嫌で。
でぃれくたーに自分の事情を話す事を今までしてこなかった。
別に仕事するだけならこのままで全く問題ないし……
幸いにしてそこに興味を持たれるような事も無かったから。

それに、向こうだって現状維持を望んでる事は
今までの発言からなんとなーく察せたし?


だからさ。


「……これからも、それで良いと思ってたんだけど」


あの二人を少し見ちゃっただけですぐこれだ。
あーあ、どうやって誤魔化そっかな。あたしの欲張りすぎる心を。