Eno.38 白恋たると

■ たるとが生まれた日【後】

 

"この占いのおかげで、
喧嘩していた友達と仲直りできました!"

"占って頂いた通りの範囲を勉強したら、
テストで100点を取ることができました。"

"占いの結果通りの場所で告白したら、
ずっと好きだった人と付き合えることになりました!"


「へへ…… わたしの占いのおかげで、皆上手くいってるみたい。
 よかったなあ… ほんとは占いじゃないけど。


幼かった頃のわたしの人助け…… および小細工は、
最初は上手く行っていた、ように思えた。

けれど人というのは、初めはどんなに喜んでいたとしても
慣れてくると同じ量の幸せでは満足できなくなる。
幸福は麻薬のようなものだ。

いつしか『よく当たる』占いサイトの噂はどんどん広まって
サイトを立ち上げてから1ヶ月ほどで、登録ユーザー数は約30倍に跳ね上がった。
わたしは一人でサイトの管理をしているので、当然全ての対応には手が回らなくなる。

そしてそのうち、中には『外れ』の結果を引く人が出てきてしまったのだ。

"『必ず当たる』と聞いたから、信じて宝くじを買ったのに…
全て外れた。これは悪質な詐欺だ"

"こんな胡散臭い占い、どうせ次も当たらないんだろうな"

"神様なんて本当は居ないんだ。"


「ち…… 違うっ!
 待ってよ…… わたしは皆のために……!」


『必ず当たる』だなんて文句は、あくまで世間で勝手に広まった噂であり
サイトの何処にもそんな文章は書いていない。

けれど、小さなわたしの世界はあっという間に燃えて火の海になった。
心無い暴言や、誹謗中傷の声も沢山届いた。

「……何でこんな事になっちゃったんだろう。」


「わたしはただ……
 わたしの占いで、どんなに小さな事でもいいから
 救われる人がいたら嬉しいと思っただけなのに。」


「あなたたちは……」


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「──たると【占い】に頼りっきりで、
 自分の頭では考えもしない馬鹿共のくせに。」


わたしはいつからか、占いサイトを利用する者を……
自分を純粋に応援してくれるような人達にさえ、
見下すような態度を取るようになってしまった。

サイトの管理人を続けていく中で、
自分にとって都合の悪いユーザーはどんどん切り捨てた。

 ──わたしを信じない人の事は助けない。

 ──心無い言葉をコメント欄に書き込む奴なんかは、
   お返しに何十倍もの呪いを送り付けてやる。

 ──今良い顔をしている者だって、
   どうせ占いが当たらなくなったら途端に掌を返すのだ──


そんな捻くれた黒い感情に支配されながらも、
迷える者に手を差し伸べることをやめないのは。

「──苦しんでいる人を救いたいの……
 わたしはそのための力を持ってるんだから!」


……心の何処かで、昔の願いを忘れられないからだろうか。

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わからない。
いつかの日も、そんな事を考えながらホームで電車を待つうちに
スマートフォンの通知が鳴ったのだ。

…… ……。


画面を覗いて無言で眉をしかめる。
届いたのは、わたしの占いサイトへの誹謗中傷のコメントだった。
その日は何だか、やけにいつもより腹が立って──

悪質なコメントを送った者に対して、画面越しに約500倍の呪いを送り付けた。
相手は高熱でも出して入院するかもしれない。

神隠しに逢い、無人島に漂流したのはその直後の事だった。