Eno.155 Иван А. Гладский

■ 備忘録-イワン-

妹の家出をきっかけに、両親はますます存在しない信仰に溺れていった。
「悪魔に連れ去られた彼女を取り戻す」と言って逃げられたことにすら気付かず、しまいにはその信仰に疑問を抱く僕に対し「悪魔の影響を受けた」と迫害する始末。

――もう、見ていられなかった。

妹の身に起きた事故と、そこに滑り込んだしょうもない悪魔。そのせいで家庭があっさりと崩壊に追い込まれている。
妹は失踪し、両親は変貌。

僕のしてきたことはいったい何だったのかと、言いようのない無力感に苛まれる。

だから僕は、これ以上両親が狂って壊れてしまう前に、長らく使われずに錆が目立った父親の斧で――

それからは独りで放浪する生活が続いた。田舎であることも手伝って、即時の通報に結び付かなかったのも大きいだろう。実体験を携えて寄生生物論文の提供元を頼り、そして

「君のような子たちにちょうどいい場所がある、もしよければどうかな」

と勧誘を受けた組織で実働要因としての活動を始めることとなる。
この組織は人間社会に巣食う異形や怪物に対抗する場所であり、「猊下」と呼ばれるリーダーの下で怪異の被害者やその関係者を中心に構成されている。
「猊下」の正体はよくわかっていないが、それでも衣食住の提供をしてくれる分信頼に足る相手だと思っていた……いや、思うしかなかったのかもしれない。
偏見と差別の温床であったと今となっては思うが、それでも追い詰められた僕に残された唯一の居場所でもあったのだ。

その考えが変わるまでは、約3年の歳月を要することとなる。