Eno.216 真月姫 瑠璃子

■ 無題

『枝を切り、薪を割り、焚火にくべる。
 水を汲み、煮沸かし、容器にそそぐ。

 血まめと擦り傷だらけの手をひりひり痛み。
 森に岩場に歩き通りの脚はくたくたで。

 依然、獣の血は恐ろしく。
 魚は焼けば黒焦げになってしまう。

 やらなければいけないことがたくさんあって。
 やれることがたくさんあって。

 やさしい人がいて。
 守りたい人ができて。
 やりたいことが増えていく。

 わたしには、なんだってできる。
 わたしを諦めていたのは、わたし自身。

 この先どうなるかはわからない。
 でも、まちがいなく、今この瞬間。
 わたしは、幸せに生きている。

 ここで生きていけたのなら、
 たとえこの先、どこに居ても―     』


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欠けた記憶。
漂流前の出来事。
豪華客船。

壊れた時計。
止まった秒針。

10:08:42

『あなたはきっと、豪華客船で目覚めるの』

『元居た場所に帰るだけなら、そうなるはず』

ダメ

ダメ

どうして

わからない

5分前

せめて3分前に

どうかどうか





あそこには戻さないで―