■ 無題
『枝を切り、薪を割り、焚火にくべる。
水を汲み、煮沸かし、容器にそそぐ。
血まめと擦り傷だらけの手をひりひり痛み。
森に岩場に歩き通りの脚はくたくたで。
依然、獣の血は恐ろしく。
魚は焼けば黒焦げになってしまう。
やらなければいけないことがたくさんあって。
やれることがたくさんあって。
やさしい人がいて。
守りたい人ができて。
やりたいことが増えていく。
わたしには、なんだってできる。
わたしを諦めていたのは、わたし自身。
この先どうなるかはわからない。
でも、まちがいなく、今この瞬間。
わたしは、幸せに生きている。
ここで生きていけたのなら、
たとえこの先、どこに居ても― 』
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欠けた記憶。
漂流前の出来事。
豪華客船。
壊れた時計。
止まった秒針。
10:08:42
『あなたはきっと、豪華客船で目覚めるの』
『元居た場所に帰るだけなら、そうなるはず』
ダメ
ダメ
どうして
わからない
5分前
せめて3分前に
どうかどうか
あそこには戻さないで―