Eno.260 おさかなさん

■ 観察記

7日目、未だ仲間は来ず。

人魚は拠点の日陰⋯比較的ひんやりとした場所で涼をとっていた。
海の中は陽にあたれば瞬く間に暑くなり短時間潜るだけでもひどく体力を消耗する。
岩場に避難しようにも刺々しく縋りつくしかない。

浜辺は一度上がれば戻れなくなるため、あまり浅瀬によると波が早いので
あっという間に沖に流されたり、逆に打ち上げられたり。
結局拠点にしか安寧はないのだが、陸に長居をすると体が干上がってくるのである。


⋯元気なのに、元気ではない。お腹に違和感があってそこをよく見てみると
老いた人魚のようにキラキラとウロコが逆立っていて、剥がれかけていた。
もうちょっとしたらうまく取れそうだが、それは身を剥がすのと同じこと。
たぶん、自分は群れに帰れないのだろうと人魚は考えた。

今は男が 「はち」が帰ってくるのをただ待っている。
貰った肉が冷めかけているのだけは⋯なんとかしなくては。
そう考えているが、茹だるような暑さから逃げきれず⋯

人魚はただ、横たわっていた。