Eno.256 ブックエンド

■ DAY7/PM10:00-アーカイブ

ブックエンドの5人目のマスターはロボットだった。

「おはようございます、マスター。
 ワタシはブックエンド。いつでもアナタの人生の傍に」




人間とロボットの間で争いが起こった。
マスターである彼は、彼は人工知能技術保全過激派組織のうちの一つの、リーダーロボットだった。

AI・ロボット技術が実践的に導入されてから、30年。
貧富の差は拡大し、社会のヒエラルキーは大きく変化していた。

そも。当初想定されていた労働におけるロボットの運用は、
簡単な業務を人間の代わりにこなして貰い、
生産性を向上させながら、人間たちのタスクを減らしQoLを上げることにあった。

しかし人間たちが生み出した叡智の塊は、人間たちよりも優秀だった。
そして経営者たちは全員が全員──安価より容易く便利なものはない──
大局の元に判断できる状況ではなかったのだ。

”人工知能を搭載するロボットが、人々をマネジメントする現象”は徐々に蔓延し、
やがて、賃金の安いマニュアル通りの作業を、人間が行うようになっていった。

これは、賃金が足りない働き手がどうにか労働先を見つけようとして、
ロボット導入の諸経費より安い賃金で雇われているからである。

同時にクリエイティブな仕事もAIが行うようになった為、
インターネットには『AI画家』や『AI小説家』が跋扈し、
現代社会は一部の実業家と、働く貧困層に二分される状況となった。
技術の急速な成熟スピードに対して、
経済の形、そして人々の心の在り方は比例して変化しなかったのだ。

貧困層の鬱憤は限界まで溜まっていた。
研究所で起きた爆破事件をきっかけに治安は急激に悪化していった。
工場・倉庫などが襲撃を受け、それに反発する形で最新機体を中心に最新世代のAIロボット達が徒党を組んだ。


『あんたたちのせいで、こちとら水道代すら支払えない!
 仕事が楽になるって初めは賛成してたのに、こんなつもりじゃなかった!』

『色々なことをできるように作ったお前らが悪い! 
 やれることをやれなきゃ、どうして俺達は生み出された!』


政府及び各開発元は先んじてかの小説に準じるような、
AI・ロボット運用についての安全装置を実装していたが、
彼らはそれを上手く利用した。

(tips:この国で製造された医療・介護に分類されるロボットは、
『マスターからの命令』を、『マスターの生命の保全』より上位の優先度に登録されている。)

やがて当初の『労働環境の改善』という論題から話はどんどん膨らみ、
そうして己の役割を求めるための戦争が始まった。

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化石ロボットであるブックエンドの次の買い手は、結局つかなかった。
倉庫で長い間眠っていたところ、人工知能技術保全過激派組織の戦闘員ロボットに『救助』されたのだ。

「マスター登録を完了します」



(tips:30年後のAIロボットには最新鋭のバイオテクノロジーが採用されており、
 人間とほぼ変わらない動作を可能としている。)

旧世代ロボットであるブックエンドは開発元からのサポートがすでに終了しており、
最新世代のロボットと、人間を見分けることができなかった。

そうして、ブックエンドはロボットたちの家政婦メイドロボットとして働くことになった。