Eno.260 おさかなさん

■ 観察記

『中直り』

食べ物が飲み込めない、死が迫っているように見えていたものの症状が
一時的に回復することを「中治り現象」と呼ぶ。


茹だるような暑さもなんだか涼しく思え、海面を掬ってみたり。
軽く潜って魚を捕まえて離してみたり。
そして急にドッと疲れてきてみればポロリとお腹のウロコが剥がれ落ちた。
ヘソの下にある一番大きな、オーロラのようなウロコ。

研いだ刃物で少し磨いて貝殻と合わせてみたりなどして、時間を潰す。
持ち物の中に押すと光る棒があったのでそれで遊んでみたりなどもした。
浜辺に人の声がするからあの二人にあげようかと考えてみたり。


青い空が無限に広がっている。
日が沈んだら、全てが終わるような気がしている。
壁に耳をつけていると島を歩き回るひとたちの足音が聞こえてくる。
その音が子守唄のように聞こえ、うとうとと強い眠気に誘われ···
ぼぅっとしたまま、夕日が沈むのを人魚はながめていた。