Eno.262 シマオナガサル

■ おさるログ_???

この島に流されてきて幾日の時が過ぎたのか。

過ぎし日を思い返す内、ついウトウトしていたようだ。
お手製ハンモックの上で身を起こし、しばしのんびりと朝のひと時を過ごす。
やがて頭を振って空を仰げば、太陽はいまに中天に差し掛かるところであった。
少しばかり寝過ごしてしまったかもしれない。朝というには太陽がすでに仕事をし過ぎている。
いつものように勢いをつけて寝床から飛び、着地。すると足先に何やら固いものが触れた。
はて、こんなところに荷物を置いただろうか。先日発掘した『なんかすごくモヤッとした雰囲気出してくるイカツイ面構えの石像』はモニュメントとして森の奥に安置してきたはずだが…。
怪訝に思いながら足元を見やれば、散らばっていたのは何かの干物であった。
奇怪な生物の木乃伊、となればすわ石像の呪いかと一瞬身構えるも、まじまじと見れば何のことはない。これはイカの干物である。
考えてみれば昨夜寝床に入る間際、無精して取ってきた獲物を足元に置いていたのであった。
……しかし、一夜干しにしては固い気がする。己はいかほどの間眠っていたのだろうか。

考えてみればこのところ、時間の感覚がなりつつあった気がする。
これが悪いことかといえば、実のところけっしてそうではない。この身は妖精種であるがゆえ、定められた寿命というものを持たない。
本来であれば時間の経過など気にも留めることがない。留める必要がないのだが、住環境の変化によってそこに変化が起きた。そしてそれが治まったというわけだ。
何となれば日常に戻ったということである。この島での暮らしが日常になったということである。

具体的にどういった変化が起きてどう収束したのかは説明しづらい。
ともかく妖精ってのは、何にも捉われず自由でなんというか救われてなきゃあダメなのだ。独りで静かで豊かで…。
感じてほしい。フィーリングとか、そういうアレで。

それはともかくこの大量のイカの干物はどうしたらいいだろう。
…。
……。
………………配るか。

さいわいにしてこの島には隣人というか同居人というか赤の他人というか、なんていうか微妙なニュアンスの存在が二名ほどいる。近隣住民?
彼らに配布すればほどよく減っていい塩梅な気がする。うん、とてもいいアイデアのような気がしてきたぞ。
ただ二点、まあそれほど気にするようなことではないんだが。
ひとつはまだ一度も彼らとちゃんとコミュニケーションを取ったことがないということ。
そしてこちらは彼らの言葉を理解できるが、こちらの鳴き声は彼らにことばとして伝わらないということだ。
だって我サルぞ?発声器官もサルに準拠しているのだからしかたないね。

突然奇声をあげてイカの干物を投げつけてくるサル。控えめに言ってもテロでは?
なるほどね、これが飯テロってやつか…。






























こうして時は過ぎていく。
閉じたセカイはおわることなく日々を綴る。
観測者が飽いてもなにひとつとして変わることはない。


~おしまい...?~