Eno.331 アイジロ

■ 20 アイジロという人間


アイジロは、とくにこれと言って特出した才能を持っていない。
アイジロは、どこにでもいる人間だ。
アイジロは、簡単な魔法しか使えないから己の身でどうにかするしかなかった。
アイジロは、そんな自分を嫌いではないが好きでもなかった。
アイジロは、それでも大きな魔法が使える人に見下されているのを感じるときは嫌になった。
アイジロは、その視線から逃げるように故郷を去った。
アイジロは、冒険者登録をした。
アイジロは、自分でもできそうな依頼を探して積極的に受けた。
アイジロは、依頼先で感謝されることで救われていた。
アイジロは、完遂したことで予想していなかった災いが起これば黙って罵られた。
アイジロは、終えた依頼が窓口で事務的に処理される様子を見ることが好きだった。



アイジロは、そんなつまらない人間だ。



アイジロは、海に近いところで見つかった洞窟を調べる依頼を受けた。
アイジロは、一番奥、一番深い湖に潜った。
アイジロは、そこが海につながっていると記録する前にナガサレた。
アイジロは、小さな島に打ち上げられた。
アイジロは、声だけがする女の子と出会った。
アイジロは、ちょっと目つきは悪いけれど親切な少年に出会った。
アイジロは、人に怯える少女と出会った。
アイジロは、見たこともないナニカたちが集まった群れに出会った。
アイジロは、彼らと話したり、聞いたり、話しかけたりした。
アイジロは、17歳の魂と13歳の少年とそれより幼い、ここに来るまでの記憶がない少女と会話のできない群れのなか、自分がしっかりしないといけないと思った。
アイジロは、そう、つよく思った。


たましいは、飲食もものを運ぶこともできた。
彼女は、水大臣としてこの熱い中蒸留器を使い続けた。
レイコは、時々鋭い指摘をしてきて焦ることもあったが、漂流したことを忘れさせてくれるような面白いことをたくさん話してくれた。

少年は、親のところに帰りたいと言った。
彼は、森に行ってはたくさん使えそうなものを探してきてくれた。
カーシーは、人だけじゃなく命を食べること、資材を使うこと、この島のことを考えられる聡くて心優しい子で、次の誰かのために像を残した。

なにかの群れは、誰かが話しているとそちらを見ていた。
それらは、驚くほどの器用さで小屋を建てたり、ものを集めたりしていた。
ワサワサは、そう呼ばれ会話はできなくても意思は通じた……と思っていたが、予想以上の無茶や行動するとんでもない人外だったが、たくさんの思い出をくれた。

少女は、言葉の代わりに字を書くことで伝えてきた。
彼女は、ひどく怯え、自己肯定が低く、足手まといになりたくないと必死だった。
ミソニは、アヒルのおもちゃが好きで、初めてのお肉を美味しそうに食べる、ひたむきな子だった。


彼らは、アイジロが守るものではなく、アイジロと支え合う仲間であった。


アイジロは、彼らと同じ屋根の下で寝た。
アイジロは、彼らと分け合った。
アイジロは、彼らと笑った。
アイジロは、


アイジロは、義務感ではなく、好意から。
彼らが無事に帰るところや行きたいところに進めるよう願った。



つまらない人間だったアイジロは、遭難者クラブの一員のアイジロを、好きだと言える。



アイジロは、ミソニとたくさんの経験をして、カーシーにアイジロが無茶をしていないことを伝え、レイコの墓を探して手を合わせやはり無茶をしていないことを伝え、ここから出られたらきっともう会えないであろうワサワサが今日も知らないところで思うようにやっているんだろうなとふとした時に考える 

そんな日を、楽しみにしている。