■ *『エピローグ』

どうにかと水を確保しては飲んで。
いくらかの命を確保しては食べて。

――そうして、この島に流れ着いてから八度目の朝日が登ったのち。


「お~~~~~い」


聞き覚えのない大声の方向、水平線の上に映るは船影と人影。

「……よかった、まだ生きてるみたいだ。
明かりと煙がぼんやり見えたから向かってみたけど、アタリだったな」

「私はこのあたりを定期的に巡視する一団のひとりだ。
君がそうであるように……この世界は多いのさ。"そういうの"が」


巡航船を近づけて錨を下ろす、海兵めいた風貌の青年は語る。

「しかし、君は運が良かったな。
先程"この海"が新たに海を取り込み始めたのを確認した。
……あと1,2日もすれば、水位は数メートルと上がるだろう」

「――本当に、よく生きていてくれた。
お陰で、私はまた知らぬ誰かを弔わずに済んだ」


青年は伏し目がちに海を眺めて。

「さ、準備ができたら船に乗ってくれ。
この船は"海"を介して世界を渡れる特別製だ。
どこでも、君が望む世界の海に送り届けてみせよう」

「ああ、この海や君の話は航行中にでもしよう。
帰ったあとの辻褄合わせも、必要であれば任せておくれ」


そう言って青年は微笑み、船内へと戻っていく。


あなたは、この島で何かを得れただろうか?
それとも……何かを失ったきりの、ただの災難だっただろうか?

――短くも長い孤島での非日常は、ようやく終わりを迎えつつある。